中国で建造されたブラジルのガト・ド・マト油田向けFPSOの船尾セクション中国で建造されたブラジルのガト・ド・マト油田向けFPSOの船尾セクション(写真提供:三井海洋開発)

ホルムズ危機が世界の石油供給を揺さぶっている。中東のペルシャ湾と外洋を結ぶ原油輸送の大動脈が不安定化し、改めて存在感を増しているのが、ブラジル、ガイアナなど南米東岸と西アフリカの深海油田だ。そのエリアを中心に“海に浮かぶ石油工場”ともいえるFPSO(浮体式原油生産・貯蔵・出荷設備)開発で世界2強の一角を占めるのが三井海洋開発である。建造から長期の運転・保守までを含む受注残は約4兆円にも上り、巨大な需要は日本の造船業にも成長を取り込める可能性がある。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、同社が世界2強にのし上がった経緯を解説。また、海外のFPSO需要増が日本の造船復興につながる可能性にも迫る。(ダイヤモンド編集部 金山隆一)

ホルムズ危機で揺らぐ「安い中東原油」
大西洋の深海油田を支える日本の技術

「ノーモア・チープオイル」。三井海洋開発の井出壮一専務執行役員は、中東原油を取り巻く変化をこう表現する。地中から取り出すコストが安くても、輸送保険料や船舶の確保、ホルムズ海峡を迂回するパイプラインの整備まで含めれば、従来のように「安い石油」とはいえなくなるという意味だ。

 再生可能エネルギーの導入が進む一方で、新興国・途上国の経済成長などによって世界のエネルギー需要が拡大。石油需要がすぐになくなるわけではない以上、必要な原油をどこから安定的に確保するかが問われている。

 南米や西アフリカの深海油田開発は、ホルムズ危機以前から進んでいた。しかし、中東への過度な依存が持つ弱点が露呈したことで、海峡を経由せずに原油を世界市場へ送り出せる同エリアの供給地としての価値は高まる。

 米エクソンモービルや英シェルなど、世界規模で石油・ガスを開発する「石油メジャー」の投資動向を追うJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)の古藤太平氏も「大西洋両岸の油・ガス田を重視する傾向がある」とし、消費国や企業が、多少の追加費用を払ってでも「安定供給を確保しようとしている動きがある」と指摘する。

 しかも、深海油田は単に「中東の代替だから高くても開発する」資源ではなくなった。探査・掘削技術の進歩と巨大油田の発見によって、コスト競争力そのものが高まっているのだ。南米とアフリカは、約1億4000万年前にはゴンドワナ大陸の一部としてつながっていた。大陸の分裂と大西洋の形成に伴う共通の地質の歴史が、両岸の豊かな油・ガス田の背景にある。代表例が、ブラジル沖の岩塩層の下に広がるプレソルト油田群だ。

 海底のさらに下にある厚い岩塩層を掘り抜き、その下の地層から原油を取り出す。井出氏によれば、かつて半年ほどかかった井戸の掘削を、現在は45~50日程度でこなせるようになった。海上から海底下へ穴を掘る専用船の使用期間が短くなり、高額な用船料を抑えられる。

 さらに、井戸1本から日量7万~8万バレルを生産できるケースもある。設備投資の総額は巨額でも、取り出せる原油が多ければ、1バレル当たりの投資負担は小さくなる。井出氏はプレソルトのコストを20ドル台と説明する。

 ガイアナにも競争力の高い油田がある。JOGMECなどの調査によれば、ガイアナのリザ油田第2期の損益分岐点は1バレル25ドル。事業の採算が取れる原油価格の目安だ。全ての深海油田が安いわけではないが、豊富な資源量と技術革新が重なった油田では、深さが採算の悪さに直結しなくなっている。

 そうした深海油田の開発に欠かせないのがFPSO(浮体式原油生産・貯蔵・出荷設備)だ。大型の船体の上に、原油やガスの処理設備が並ぶ。海底の井戸から管を通じて送られる原油には、ガスや水などが混じっている。船上でこれらを分離し、原油を船体内のタンクにため、輸送用タンカーへ積み出す。

 ガソリンなどへの精製は、その後、陸上の製油所で行う。いわば、生産設備と貯蔵タンク、積み出し基地を一体にした洋上工場だ。遠く離れた陸上まで原油輸送用の長大なパイプラインを敷かずに済み、水深2000メートルを超える沖合でも巨大油田を開発できる。

 もともとは小規模の油田や本格開発前の早期生産に使われていたが、今では巨大油田を長期間支える主力設備へと進化した。ブラジル、ガイアナに続き、南米のスリナムやアフリカ南西岸のナミビアなどの開発が進めば、新たなFPSOの需要が生まれる。

 三井海洋開発とシンガポールにFPSOのエンジニアリングの合弁会社を持つ東洋エンジニアリングの細井栄治社長は、南米や西アフリカの深海開発を背景に、2030~40年に向けてもFPSOの需要が続くとの見方を示す。

 大型のFPSOでは、三井海洋開発とオランダのSBMオフショアが世界2強を形成している。三井海洋開発のFPSOの完工実績は35隻。現在、建造中は4隻で、操業中も18隻に上る。両社に共通するのは、造船業を源流に持つことだ。三井海洋開発の前身の会社は1968年に三井造船と三井物産の出資で設立された。

 SBMもオランダの造船所などにルーツを持ち、海洋設備の設計・建造技術を蓄積してきた。ただ、船を造る技術だけで世界2強になったわけではない。FPSOは、波に揺られる船体の上で巨大な石油処理設備を動かし続ける施設だ。船とプラントを一体で設計し、限られた工期と予算で完成させ、その後も安定して稼働させる必要がある。この一連の仕事を担った実績が、新規参入企業には容易に越えられない壁になる。

世界2強に上り詰めた三井海洋開発だが、顧客や建造先は主に海外だ。特に、造船については中国の造船所を活用している。ところが、足元でタンカーやLNG船などの発注も増え、FPSO向けの枠の確保が難しくなりつつある。そこで、三井海洋開発が見据えるのは国内の造船業との連携だ。次ページでは、三井海洋開発が飛躍した経緯や同社が持つ技術を解説。日本や中国の造船業とも連携する「分割建造」という取り組みの中身や、そのボトルネックを探る。