【これからの展望】一過性のブームを超えて「社会インフラ」へ導く3つの方向性

 認知が急拡大した今だからこそ、私たちはアルムナイ・リレーションシップを一過性のブームで終わらせてはなりません。単なるトレンドを超え、これからの日本社会を支える「新しい社会インフラ」へと高めていくために、私は以下3つの方向性が必要だと考えます。

1. 個人と組織の「新しい社会契約」:雇用の終了ではなく、「生涯にわたる関係」へのアップデート

 これまで、日本の労働社会は、「雇用契約の存続=関係の存続」という前提に縛られてきました。しかし、人生100年時代において、一人の人間が一生のうちに複数の組織を経験することは当たり前になりつつあります。

 ここで求められるのは、個人と組織の間の「新しい社会契約」です。入社から退職までの一時的な関係ではなく、退職後も含めたライフタイムで相互に価値を提供し合う関係へアップデートすること。企業は「自社を離れても人生を応援してくれる存在」となり、個人は「自社を卒業した後も誇りを持って関われるホーム」を持つ。この相互信頼のネットワークこそが、人的資本経営の真の到達点であると考えます。

2. 働く個人にとってのアルムナイ:「ポータブルな信用資産」とキャリアの安全網

 アルムナイ施策は、人事や経営のためだけの取り組みではありません。実は、最も大きな恩恵を受けるのは「働く個人」自身です。

 転職や独立が当たり前になる中で、過去に自分がどの組織でどんな価値を生み出し、どんな人間関係を築いてきたかという「古巣との信頼関係」は、個人のキャリアにおける強力な「ポータブルな信用資産」になります。困った時に相談できる元同僚、リファレンスで自身の信用を担保してくれる元上司、ビジネスのパートナーとなってくれる古巣企業――これらは、変化の激しい時代を生き抜くための最強のキャリアのセーフティネットであり、個人の可能性を広げる資産となるのです。 

3. 日本社会全体への波及効果:「知と人材が巡るオープン・エコシステム」の創出

 人手不足が深刻化する日本において、各社が自社の中に人材や知見を囲い込む自前主義は、もはや限界を迎えています。アルムナイ・ネットワークを自社だけに閉じず、自社アルムナイに興味がある企業と自社アルムナイをつなぐことで、限りある人的資本を社会の資産化する動きが今後広がっていくでしょう。

 そうなることで、ある企業で培われた知見やスキルが他社や地域社会へと広がり、時にはコラボレーションとして戻ってくる「知と人材の健全な循環するオープン・エコシステム」が生まれます。自社と他社、大企業とスタートアップ、都市部と地方という境界を越えて人が行き交い、新しいイノベーションが生まれる。アルムナイは、停滞する日本経済を流動性と共創によって活性化させる「ソーシャル・キャピタル」の要となるのです。

 私たちが、今年、大企業のアルムナイなどが過去に在職した企業のアルムナイ・ネットワーク上で業務委託案件を探して業務委託で仕事ができる「オフィシャル・アルムナイ・パートナーズ」や、求人情報を探して転職できる「オフィシャル・アルムナイ・キャリア」というサービスを提供開始したのは、このような未来像を実現に近づけるためです。

 この3つが揃った時、私たちが掲げるビジョン「別れを資産に」が実現されると信じています。

【おわりに】これからの時代を生きる企業と個人へ

 退職によって雇用契約が終了したとしても、人と人、人と企業の「縁」や「信頼」まで終わる必要はありませんし、これからの社会では契約によらない信頼関係の重要性は高まる一方でしょう。

 企業にとっては、自社を飛び立ったアルムナイが社会の様々な場所で活躍し、時にはパートナーとして、時にはファンやサポーターとして自社を支えてくれる存在になること。個人にとっては、過去に働いた会社や元同僚たちが、自分の価値や信用を高めてくれるパートナーとなり、自分のキャリアや人生を生涯にわたって応援し合える「ホーム」であり続けること。

 「退職したら裏切り者・関係ない」という時代から、「雇用を超えたつながり」が人を育て、企業を強くし、「別れを資産に」することで、社会を豊かにする時代へ。

 本連載が、そのような未来の実現に向けて一歩を踏み出す企業や人事の皆さん、そして、ご自身のキャリアや退職に悩むビジネスパーソンの背中を少しでも押すことができたなら、著者としてこれ以上の喜びはありません。

 全15回にわたり温かいご愛読をいただき、本当にありがとうございました。またどこかで、皆さんとお会いできることを楽しみにしています!