
「人的資本経営」のキーワードとして「アルムナイ」が注目されている。企業が自社の退職者である「アルムナイ」とどのような関係(アルムナイ・リレーションシップ)を築いていくかは、人材の流動性が高まっている時代で重要だ。さまざまなメディアからの出演依頼が続き、著書『アルムナイ 雇用を超えたつながりが生み出す新たな価値』(日本能率協会マネジメントセンター)も多くの読者に読まれている、「アルムナイ」知見についての第一人者・鈴木仁志さん(株式会社ハッカズーク代表取締役CEO兼アルムナイ研究所研究員)の「HRオンライン」連載=「アルムナイを考える」――その第14回をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)
>>連載第1回 「退職したら関係ない!」はあり得ない――適切な「辞められ方」「辞め方」を考える
>>連載第2回 誰もが明日から実践できる「辞め方改革」が、あなたと企業を幸せにする理由
>>連載第3回 「辞め方」と「辞められ方」――プロサッカークラブに見る“アルムナイ”の大切さ
>>連載第4回 “出戻り社員”が、会社と本人を幸せにする理由と、お互いが成功する方法
>>連載第5回 内定辞退者や早期退職者に対する“負の感情”が減る「辞め方改革」とは?
>>連載第6回 「急がば回れ」の姿勢が、“アルムナイ採用”をしっかり成功させていく
>>連載第7回 「アルムナイ」の広がりに伴う“さまざまな声”について、私がいま思うこと
>>連載第8回 いま、このタイミングで、“アルムナイ”の書籍を執筆して気づいたこと
>>連載第9回 メンバーシップ型の日本企業こそ、アルムナイ・リレーションシップをつくる意味がある
>>連載第10回 目的が「再雇用だけ」ではNG!――人事部からアルムナイへのアプローチ方法は?
>>連載第11回 「退職者インタビュー」の重要性とは?辞めた人の声があなたの組織を変えていく
>>連載第12回 「Buy (採用)」「Build (育成)」とともに必要な、アルムナイの「Borrow(借りる)」
>>連載第13回 アルムナイに地域特性はあるのか?関西エリアでのアルムナイの現状
増加するオフラインの“アルムナイイベント”
最近、SNSなどで「アルムナイイベントを開催しました!」という投稿が増えてきています。読者の皆さんもそのような投稿を目にされたことがあるのではないでしょうか。本稿では、アルムナイイベントについて、企業が実行している事例や、いくつかのポイントを紹介します。
オンラインでのコミュニケーションが当たり前になった今、日常的な接点の多くはデジタルで賄えるようになり、多くの企業がユーザーや社員とのコミュニケーションにコミュニティツールやオンラインイベントなどの手段を活用しています。これはアルムナイにおいても同様で、私が経営するハッカズークが提供するアルムナイ専用サービス「オフィシャル・アルムナイ」でも、日々、多くの情報共有などが行われている一方で、次のような声をよく耳にします
「アプリでプロフィールは見てもDMを送ることはなかったが、対面のイベントで会ったアルムナイとはアプリ上でコミュニケーションをとるようになった」
「アプリで前職の変化に関する記事は読んでいたが、久しぶりに実際にオフィスへ来て、社員の人と話したら、その変化は想像以上であることがわかった」
実際、デジタルではつながっていたアルムナイでも、対面で会って、初めてビジネスの話につながったり、あるいは再入社を真剣に考え始めたり、という事例も決して珍しくありません。どれだけデジタル化が進んでも、「対面で会う」ことが持つ力は今も変わらないということの証明だと言えるでしょう。
「日常」「中間」そして「非日常」の場
アルムナイとの接点は「日常」「非日常」、そして、その間である「中間」の場の3レイヤーで考えることができます。SNSやコミュニティアプリでの発信・交流は「日常」の場として機能しますが、それだけでは築けない深さの関係が、数十名規模の分科会や座談会のような「中間」の場、そして、大規模な対面での同窓会やビジネス交流会といった「非日常」の場で生まれます。イベントはまさに、この「中間」の場から「非日常」の場を担うものです。では実際に、どのようなアルムナイイベントがあり、そのそれぞれの目的やアルムナイ・企業双方にとっての意味は何なのでしょうか。
アルムナイイベントの目的設計をするうえで意識すべき点が2つあります。一つ目は「誰のメリットが主軸か」で、企業側(再雇用・ビジネス協業・採用ブランディングなど)か、アルムナイ側(学び・人脈形成・副業機会など)か。二つ目は「目的が、ビジネス寄りか、人事寄りか」で、事業部門での新規取引や協業といったビジネス成果か、再雇用・社員育成・社員エンゲージメント向上といった人事領域の成果か。
この2つを掛け合わせると4つの類型「(1)企業側×ビジネス成果」「(2)アルムナイ側×ビジネス成果」「(3)アルムナイ側×人事成果」「(4)企業側×人事成果」に分類できますが、実際のイベントはどれかに100対0できれいに収まるものではありません。企業側もアルムナイ側も複数のニーズを同時に持つことが多く、「再入社は狙いたいけど、ビジネス協業もしたい」という企業もありますし、「ビジネス協業の機会も欲しいし、将来的には再入社も考えたい」というアルムナイもいるので、4つの類型にきれいに分類されるものではなく、双方が自分なりの目的を持って参加できる設計になっています。実際、本稿で挙げるいくつかの事例を見ていただくと、双方のニーズが満たされるイベントが多いことがおわかりいただけると思います。また、どちらかのメリットに振り切るのではなく、バランスを意識したうえでイベントを設計することが重要です。
目的の設計を始めると、次は「どのくらいの規模が適切なのか」という、より具体的な設計に移ります。「非日常」の場にあたる大規模な全体交流会は年1〜2回で、その企業の年間退職者数や登録しているアルムナイの人数によりますが、数十名から数百名規模で、対面で開催されることが多いです。一方、「中間」の場となる小規模なイベントは、テーマを絞ったオンライン座談会や少人数での対面での勉強会など、5〜20名規模で、月1回から四半期に1回程度の頻度で行われるケースが多く見られます。大規模な対面イベントは盛り上がりやすい反面、元々の知り合い同士で固まってしまって、新しい出会いが少なかったり、新しい人と挨拶はできるけど深いコミュニケーションが取れなかったり、となってしまうことも珍しくありません。参加者同士のコミュニケーションを促進できるよう、参加者の写真と経歴が把握できるツールを活用したり、参加者同士をつなげる「コネクター」の役割を担う人を置いたり、ライトニングトークのようなアピールタイムを作るなど、その会の目的に合わせた仕掛けを用意するのがポイントです。また、目的によっては「非日常」の大型イベントよりも、「中間」の場となる小規模なイベントのほうが適切で効果的なことも多々あります。参加人数や規模だけをKPIに置くのではなく、目的に合わせた場とKPIの設計が重要です。
アルムナイイベントの企画・運営は、多くの場合は人事部門が主導しており、採用を目的とする場合には採用チームが担当します。ただし、ビジネス交流を主な目的とするイベントでは事業部門が関わることも多く、その場合はアルムナイネットワークの主管部門として人事部門がイベントの企画・運営をし、事業部門はアルムナイとの実際の協業ニーズやアイデアを持ち込む立場を担います。そのため、予算の出所も人事部の人材開発費や採用費だけでなく、マーケティング費用として計上したり、事業部門と分担したりと、多様な形が増えてきています。
鈴木仁志さんは、内定者フォローツール「フレッシャーズ・コース2027」の『“キャリア”って何だろう?』コーナーも執筆している。







