連載を通じてお伝えしてきた「3つの認識の転換」

 過去14回の連載の中で、私が最も強く訴えてきたのは、雇用や退職に対する従来の固定観念を解きほぐし、企業と個人が「雇用を超えたパートナー」になるための意識改革です。具体的には、次の3つの認識の転換を提示してきました。

1. 「退職=裏切り・損失」から「辞め方改革・共創の始まり」へ 

 かつては退職が決まった途端に冷遇されたり、放置されたりする、もったいない「辞められ方」が多く聞かれました。しかし、現在では多くの企業が、入社時のオンボーディングと同じくらい、退職時のオフボーディング体験を素晴らしいものにする「辞め方改革」こそが、企業価値を左右することに気づき始めています。

 連載第11回で取り上げた、退職者に対する「イグジットインタビュー」もその象徴です。辞めていく人の本音や客観的な意見に真摯に耳を傾け、自社の評価制度や組織改善に活かす。そして、「あなたの声で会社が変わった」とフィードバックする。この誠実な姿勢から「自分の声が無駄にならなかった」という信頼が生まれ、退職後も自社を応援してくれるファンやパートナー、あるいは将来の協業相手へと変化していくのです。

2. 「再雇用目的のみのタレントプール」からの脱却と「Borrow(借りる)」の視点

 連載第6回や第10回でも警鐘を鳴らしましたが、企業が最も陥りやすい罠が「アルムナイ=安く再雇用するためのタレントプール」としか見ないことです。企業側の都合で再入社だけを押し付けるアプローチは、アルムナイに警戒感を与え、かえって、心を離れさせてしまいます。もちろん、再入社を希望するアルムナイには堂々と再入社機会についてアピールをすべきです。

 人事戦略のフレームワーク(Buy=採用、Build=育成、Borrow=借りる)において、アルムナイはまさに最高の「Borrow(借りる)」の対象です(第12回)。正社員としての再雇用だけでなく、業務委託や副業での協力、ビジネス協業、現役社員への知見共有など、多様なグラデーションで力を借り合える関係こそが、アルムナイ・リレーションシップの本質であり、多くのアルムナイは再雇用以外の関係性も望んでいることは、私たちが過去に実施した調査でも明確になっています。

3. 「メンバーシップ型だからこそ、アルムナイが活きる」という逆転の発想

 「欧米のようなジョブ型社会と違って、終身雇用前提の日本企業にアルムナイは合わないのではないか」――ハッカズークを創業した当初、最も多くいただいた反論がこれでした。しかし、私は真逆の仮説を持っていました(第9回)。

 新卒一括採用や長期雇用で育ててきた日本のメンバーシップ型企業には、社内の共通言語やカルチャー、暗黙知といった「企業特殊的能力」が非常に深く蓄積されています。会社を一度離れても、この「企業特殊的能力」を共有しているアルムナイは、社外のフリーランスや他社の人材と比べて圧倒的にスムーズに協業できます。終身雇用文化が根強い関西エリアでの実践(第13回)でも実証されたように、メンバーシップ型企業の強みは、退職後にも「拡張した組織」として発揮できるのです。