
「人的資本経営」のキーワードとして「アルムナイ」が注目されている。企業が自社の退職者である「アルムナイ」とどのような関係(アルムナイ・リレーションシップ)を築いていくかは、人材の流動性が高まっている時代で重要だ。さまざまなメディアからの出演依頼が続き、著書『アルムナイ 雇用を超えたつながりが生み出す新たな価値』(日本能率協会マネジメントセンター)も多くの読者に読まれている、「アルムナイ」知見についての第一人者・鈴木仁志さん(株式会社ハッカズーク代表取締役CEO兼アルムナイ研究所研究員)の「HRオンライン」連載=「アルムナイを考える」――その第13回をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)
>>連載第1回 「退職したら関係ない!」はあり得ない――適切な「辞められ方」「辞め方」を考える
>>連載第2回 誰もが明日から実践できる「辞め方改革」が、あなたと企業を幸せにする理由
>>連載第3回 「辞め方」と「辞められ方」――プロサッカークラブに見る“アルムナイ”の大切さ
>>連載第4回 “出戻り社員”が、会社と本人を幸せにする理由と、お互いが成功する方法
>>連載第5回 内定辞退者や早期退職者に対する“負の感情”が減る「辞め方改革」とは?
>>連載第6回 「急がば回れ」の姿勢が、“アルムナイ採用”をしっかり成功させていく
>>連載第7回 「アルムナイ」の広がりに伴う“さまざまな声”について、私がいま思うこと
>>連載第8回 いま、このタイミングで、“アルムナイ”の書籍を執筆して気づいたこと
>>連載第9回 メンバーシップ型の日本企業こそ、アルムナイ・リレーションシップをつくる意味がある
>>連載第10回 目的が「再雇用だけ」ではNG!――人事部からアルムナイへのアプローチ方法は?
>>連載第11回 「退職者インタビュー」の重要性とは?辞めた人の声があなたの組織を変えていく
>>連載第12回 「Buy (採用)」「Build (育成)」とともに必要な、アルムナイの「Borrow(借りる)」
「遅れている」から、むしろ、いまが機会だった
「技術やビジネスのトレンドにおいて、日本はアメリカの数年遅れ、関西は東京の数年遅れ」と言われることは珍しくありません。実際、そう感じている方も多いのではないでしょうか。かくいう私もその一人で、数年前は「アルムナイは東京では一般的になってきたけど、関西で広がるのはまだ数年先だね」と言われても、「確かにそうかもな」と大きな違和感は抱いていませんでした。そんな私が経営する株式会社ハッカズークは、2025年6月に大阪に関西初の拠点を開設しました。本稿では、開設からの時間を振り返りながら、関西エリアでのアルムナイの現状と可能性について考えていきます。
まず前提として、こちらのLinkedInの投稿にあるとおり、私は生まれこそ、大阪の岸和田ですが、関東で育ち、働き始めてからも関西には出張で年数回行く程度で、関西に詳しい人間ではありません。そのため、2024年に関西拠点の開設を検討し始めてからも、ビジネス面で関西の特性がわからないどころか、地理すらもよくわからないレベルで、「本当に、いまが関西進出すべきタイミングなのか?」という迷いが完全になくなってから進出の意思決定をしたわけではないというのが正直なところです。
そんな私が大阪拠点開設に踏み切った最大の理由は、逆説的に聞こえるかもしれませんが、「アルムナイの浸透において、関西はまだ黎明期だから」でした。本連載でも繰り返しお伝えしてきたとおり、アルムナイ・リレーションシップは、日本全体でも、まだハイプ・サイクルの黎明期に近いフェーズにあり、まだまだこれから大きく成長をしていくフェーズです。関東では東京の大企業を中心に取り組みが広がり、少し遅れて、2024年頃から関西での導入企業は増加していたものの、関東と同じレベルで関西でもアルムナイが浸透するにはまだ少し時間がかかりそうだというのが、拠点開設前の私の感覚でした。そして、その感覚は大阪オフィスを開設して半年強経った現時点でも大きく変化はしていません。
しかし、その「遅れ」こそが関西への参入理由でした。「遅れ」による参入すべき理由は二つあります。一つ目は、製造業や老舗企業の比率の高さです。東京でも、アルムナイの取り組みが始まったタイミングを業界や企業文化で比較すると、製造業や老舗企業などのメンバーシップ型雇用の文化が強く残る業界は、他の業界や企業と比べて少し遅れていました。そのため、製造業や老舗企業が多い関西では、アルムナイの波は少し遅れても、必ず来ると考えたのです。
二つ目は、ハッカズークの存在意義です。そもそも私たちは、東京を含む日本のどこにおいても「アルムナイって何?」と言われ、市場が全くなかった2017年からアルムナイの事業を展開してきています。関西においても、市場が形成される段階から携わることで、関西の企業と一緒に「関西らしいアルムナイとは何か?」を考えながら、取り組みを育てていける。市場が存在するとわかってから進出するのではなく、関西での市場形成から丁寧に向き合うことが私たちらしいし、私たちのやるべきことだと考えました。







