
約61億円に上る金銭詐取などで大問題となったプルデンシャル生命保険に、金融庁が一部業務停止命令を下した。驚いたのは、立ち入り検査にも入っていなかったグループのジブラルタ生命保険まで処分されたことだ。報酬制度の見直しに注目が集まるが、果たしてそれが問題の核心なのか。そこで連載『ダイヤモンド保険ラボ』の本稿では、行政処分の中身と、そこに込められた金融庁の真意を深掘りする。(ダイヤモンド編集部副編集長 藤田章夫)
立ち入り検査なしで
ジブラルタにも業務停止命令
2026年10月9日、金融庁はプルデンシャル生命保険とジブラルタ生命保険の2社に対し、保険業法に基づく一部業務停止命令と業務改善命令を発出した。また、両社の持ち株会社であるプルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパンにも、同法に基づく業務改善命令を出している。
業務停止期間は10月13日から27年1月31日までの約3カ月間。この間、一部を除き保険の新規販売が禁じられる。生保会社に対する業務停止命令は、19年のかんぽ生命保険以来のことだ。
業務停止命令および業務改善命令で求めたのは、以下の5点だ。
(1)過去の取締役等を含む経営責任の明確化
(2)金銭不祥事の徹底した調査と被害回復、営業管理職を含む事故者の処分
(3)報酬制度や支社運営制度、営業管理職から営業社員への十分な牽制機能の構築、保険契約の締結に関連するか否かにかかわらず金銭の不適切な取り扱いなどの是正・再発防止策などを含む適正な営業推進・管理態勢の確立
(4)営業優先ではなく、コンプライアンス・顧客保護を重視する健全な組織風土の醸成
(5)ガバナンス態勢の抜本的な強化
これらに対する業務改善計画の提出期限は11月30日で、外部専門家によるレビューを受けることも求めている。プルデンシャルは26年2月から新規販売を自粛してきたが、営業自粛を経て、さらに業務停止へと追い込まれた格好だ。
処分前日の10月8日には、プルデンシャルが社外特別調査委員会の調査報告書を公表し、得丸博充社長らが記者会見を開いた。報告書によれば、ライフプランナー(LP)と呼ぶ営業社員(退職者を含む)ら159人が、794人の顧客などから金銭をだまし取ったり、不適切な金銭貸借を行ったりした。その総額は申告ベースで61億6660万円に上り、不正は1992年から確認されているという。
会見では再発防止策についても説明した。報酬制度については最低保証給を導入し、保全(アフターサービス)に対する報酬の比率を5%未満から約20%へ引き上げ、コミッションの分割支給期間を4年から7年に延長、コンプライアンスの順守状況をボーナスに反映する――。この4点を柱に、27年1月から改定し、加えて、支社体制の刷新や営業統制本部の新設なども打ち出した。
今回の処分で驚きの声が上がったのは、ジブラルタにまで業務停止命令が出たことだ。金融庁が立ち入り検査を行ったのはプルデンシャルと持ち株会社の2社で、ジブラルタには実施していない。ジブラルタについては、「ヒアリングと保険業法に基づく報告徴求命令の回答を踏まえて処分を判断した(金融庁)という。
その理由は、プルデンシャルが営業自粛を決定した一方で、「ジブラルタでも同様の金銭不祥事案が多数発覚していたにもかかわらず、経営陣は営業自粛など新たな事案の発生を抑止するための緊急的な措置の必要性について検討を行っていない」ためだ。
要は、プルデンシャルの問題を「わが事」として捉えなかった経営陣の姿勢を重く見たわけだ。もっとも、この処分には別の意味も含まれるだろう。金融庁は、プルデンシャルと似たフルコミッションに近い報酬制度を持つ会社について「今立入検査をしている」と明かしており、9月にはソニー生命保険にも立ち入り検査に着手しているからだ。
さて、一連の問題では、完全歩合(フルコミッション)型の報酬制度に焦点が当たりがちだが、報酬制度は論点の一つに過ぎない。ある金融庁幹部は「報酬体系の見直しはあくまで“止血”であり、“根治”させるには組織をつくり直すくらいでなければならない」と言い切る。
では、何が根本的な問題なのか。そこで次ページでは、プルデンシャルの企業文化を象徴する「3W=SUCCESS」などの社内用語や、プルデンシャルの「一国一城の主」と化した支社にメスを入れる新支社体制の狙い、営業偏重にさらに傾いた時期について深掘りする。さらに、プルデンシャルと“同根”のビジネスモデルを持つソニー生命に対し、ジブラルタへの処分を通じて金融庁が突き付けた“もう一つのメッセージ”についても詳述する。







