カルロス・ゴーン(左)が「変わってしまった」転機はどこにあったのか。写真は2017年にカンヌ国際映画祭でのプレミア上映に参加したゴーンとキャロル夫人 Photo:Stephane Cardinale - Corbis/gettyimages
カルロス・ゴーンが“守銭奴”に陥っていく核心に迫る第3弾。実はゴーンは、自らの進退について「60歳引退」を考えていた節がある。ところが2014年、退任観測を覆し、仏ルノーのCEO(最高経営責任者)に再任されることになる。かつてはワーカホリック、“仕事の虫”だったゴーンが、なぜ変わってしまったのか。連載『志賀見聞録 自動車産業の半世紀とミライ』の第22回【過去編12】では、ゴーンの元側近として、その仕事ぶりを間近で見てきた筆者が、「引退」を巡る知られざる会話を明かすとともに、名経営者の運命を分けた「変節の原点」に迫る。(日産自動車元COO〈最高執行責任者〉 志賀俊之)
>>第20回【過去編10】カルロス・ゴーンと初めて会った日(1998年10月)から読む
>>本連載初回【過去編1】「ゴーンさんが羽田空港で逮捕されたらしいです」(2018年11月19日)から読む
「ゴーンは変わってしまった」
日産幹部が漏らした怨嗟の声
2018年11月、カルロス・ゴーンが金融商品取引法違反容疑で逮捕された。それまで事件について何も知らされていなかった私は、内部調査に関わった日産自動車の幹部に事情を尋ねた。しかし、東京地検の捜査中であることを理由に、詳しい説明を受けることはできなかった。
ただ、驚いたことがあった。幹部たちの口から、ゴーンに対する怒りに近い非難が、せきを切ったようにあふれ出したのだ。それまで表立って口にできなかったゴーンへの糾弾が、逮捕をきっかけに一斉に噴き出したかのようだった。しかも、彼らは皆、ゴーンに引き立てられてきた面々である。
中でも、印象に残っている言葉がある。
「志賀さんは実態を知らないと思いますが、ここ数年のゴーンはひどかった。仕事への関心は薄れ、私財を増やすことに夢中でした。昔のゴーンとは別人です。ゴーンは変わってしまったのです」
そう語る幹部の表情には悔しさがにじんでいた。
私は13年11月にCOO(最高執行責任者)を退き、15年6月に官民ファンドの産業革新機構会長に就任した。日産では執行に関わらない取締役となっていたため、日産社内の事情にすっかり疎くなっていたようだ。
「ゴーンは変わってしまった」
その言葉が、いつまでも頭から離れなかった。もちろん、私自身もゴーンの変化を感じた出来事はあった。例えば、17年9月に発覚した日産の完成検査問題だ。資格のない従業員が検査を行っていたことが明らかになり、私はゴーンに「この問題の再発防止にもっと真摯に取り組むべきだ」と進言した。
ところが、ゴーンは全く関心を示さず、「それは西川(当時の社長だった西川廣人氏)の問題だ」と、一言で片付けてしまったのである。まるでひとごとだった。かつてのゴーンからは考えられない反応に、私は驚きを隠せなかった。
それでも、仕事への情熱を失い、私利私欲に走るーーそこまで変わり果てていたとは、夢にも思わなかった。
一体、何がゴーンを変えてしまったのだろうか。







