北京で開催されたハーフマラソン大会で、ヒト型ロボットが人間を上回る世界新記録を達成した。実は、その進化を支える技術は自動運転とも密接に関わっている北京で開催されたハーフマラソン大会で、ヒト型ロボットが人間を上回る世界新記録を達成した。実は、その進化を支える技術は自動運転とも密接に関わっている Photo:VCG/gettyimages

クルマが「ChatGPTのように走る」時代がやって来た。米テスラや中国勢が開発を加速するE2E自動運転は、ヒューマノイドなど「フィジカルAI」の進化にもつながる重要技術だ。走れば走るほどAIが賢くなる競争で、日本の出遅れは致命傷になりかねない。連載『志賀見聞録 自動車産業の半世紀とミライ』の第18回【ミライ編9】では、生成AIが自動車産業にもたらす地殻変動と、日本企業が生き残るための「勝ち筋」を考える。(日産自動車元COO〈最高執行責任者〉 志賀俊之)

>>第1回【過去編1】「ゴーンさんが羽田空港で逮捕されたらしいです」(2018年11月19日)から読む

>>第16回【ミライ編7】ホンダも日産もトヨタも…世界を技術でリードしてきた日本車が最新技術で勝てなくなった「最大の理由」(2026年5月29日)から読む

生成AIの衝撃は、ついにクルマへ
「ChatGPTのように走る」E2E自動運転とは

 昨今の生成AI(人工知能)の進化に驚かれている方も多いと思う。私がAIの驚くべき進化を初めて実感したのは、筑波大学教授でメディアアーティストの落合陽一さんが、個人的に見せてくれたパソコン上でのデモだった。

 落合さんとはINCJ(旧産業革新機構)の投資先としてお付き合いがあった。ある打ち合わせの後、「面白いものを見ませんか」と声をかけられ、ご自身のパソコンで動画を見せてもらった。

 確か、海のさざ波の映像だったように思う。落合さんが何やら英語で入力する。今でいう「プロンプト」だ。すると、穏やかな海がたちまち嵐の海に様変わりした。

 さらに、音楽までプロンプトに従って編曲された。その後もお会いするたびに、「またこんな進化を遂げました」と新たなデモを見せてもらった。落合さんは当時、「生成AI関連では毎日数十本の論文がアップロードされている。これから、とんでもない進化が始まりますよ」と話していた。

 まさに今、その予言が現実になっている。落合さんは2023年、「生成AI」という言葉で新語・流行語大賞のトップ10に入賞された。振り返れば、私にとってはなんともぜいたくな「生成AI入門」だった。

 それ以前の私のAI知識といえば、機械学習やディープラーニングという言葉を知っている程度だった。ただ、一つ面白い経験をしたことがある。

 今から10年ほど前だったと思う。グーグルフォトが黒人を誤って「ゴリラ」とタグ付けしたことが問題になった。実は私も、グーグルフォトから「ウマ」とタグ付けされたことがある。息子がその写真をツイッター(現X)に投稿したところ、思いがけずバズった。

 写真の私は土手に立っており、手前には柵があった。それをテレビのワイドショーが取り上げ、「AIが柵の中にいるウマだと勘違いしたのではないか」と解説していた。テレビ局から感想を聞かれ、「私の写真がAIの進化に貢献できればうれしいです」とコメントしたことを覚えている。

 それから数年後の22年、米オープンAIがChatGPTを公開した。

 そのわずか1年後。テスラはFSD(Full Self-Driving。完全自動運転)のバージョン12(v12)を発表した。驚いたのは、クルマがChatGPTのような生成AIの考え方を取り込みながら走るということだった。

 私はChatGPTでもっともらしいうそをつかれる経験もしていた。作文なら間違いを犯しても命に関わらないが、自動運転は大丈夫なのか。率直に不安を感じたものだ。

 実は22年、私はデトロイトとシリコンバレーでテスラのFSDを試乗している。当時は、AIが入力から運転操作までを一体で処理するE2E(End to End)の自動運転技術が導入される前で、認知、判断、操作をそれぞれルールに基づいて処理する仕組み(ルールベース)だった。

 しかもテスラはカメラだけで周囲を認識していた。HDマップ(高精度3次元地図)を使い、ハンズオフ(手放し)運転が可能だった米ゼネラルモーターズ(GM)の「スーパークルーズ」と比べると、迷いやふらつきが多かったのを覚えている。

 それでもテスラは、v12から現在のv14まで着実に進化した。人間が運転しているのと変わらないほどスムーズな走行を実現したといわれる。中国勢も一斉にニューラルネットワークを使ったE2E自動運転にかじを切っている。日産自動車と提携した英Wayveや日本のスタートアップTuringも、この熾烈な開発競争に参戦している。

 では、E2E自動運転とはどのようなものなのか。