2026年のノーベル経済学賞を受賞した米スタンフォード大学のロバート・ホール教授(左)と米コロンビア大学のマイケル・ウッドフォード教授 Photo:Anadolu/gettyimages
2026年のノーベル経済学賞に、米国の経済学者2人が選ばれた。マクロ経済安定化への貢献が評価され、「フォワードガイダンス」などの政府や中央銀行の政策に両者の研究は活用されている。前日本銀行総裁の黒田東彦氏が執筆するダイヤモンド・オンラインの連載『黒田東彦の世界と経済の読み解き方』の今回のテーマは、「2026年のノーベル経済学賞」。黒田氏が解説する受賞者の功績と、フォワードガイダンス縮小方針を掲げる米連邦準備制度理事会(FRB)のウォーシュ議長への評価は?
金融政策に関わるマクロ経済学の中核テーマが
2026年のノーベル経済学賞に
2026年のノーベル経済学賞は、米スタンフォード大学のロバート・ホール教授と米コロンビア大学のマイケル・ウッドフォード教授の2人が受賞者に選ばれた。授賞理由は「マクロ経済の安定化に関するミクロ経済学的基礎への貢献(Microeconomic foundations of macroeconomic stabilisation)」である。
近年のノーベル経済学賞はオークション理論や教育と労働、イノベーションといった個別の実証分析やミクロ経済学の分野への授賞が目立っていた。久しぶりに金融政策にも大きく関わるマクロ経済学の中核テーマが評価されたことは、実務に関わってきた者として非常に喜ばしく、また感慨深い。
ノーベル経済学賞は、アルフレッド・ノーベルの遺言によってつくられたものではなく、スウェーデン国立銀行が創設300年の記念事業として1969年から始めたものだ。賞金の出所もノーベル財団ではなく、スウェーデン国立銀行が出している点が他の自然科学部門の賞とは異なる。とはいえ、選考は自然科学部門と同様にスウェーデン王立科学アカデミーが行い、授賞式も同時開催で運用はほぼ一体化されている。
私も日本銀行の総裁時代に一度、スウェーデン国立銀行総裁に招待されて、授賞式に参加したことがある。確か、米プリンストン大学のアンガス・ディートン教授が受賞した2015年のことだ。彼の授賞テーマは消費や貧困、福祉に関する分析で、政策金利を変化させた際に、家計の消費行動にどう影響するかにも関わる研究だった。授賞式のほかにも国立銀行での食事会にも参加し、世界の第一線で活躍する学者たちと交流できたのは貴重な体験であった。
ノーベル経済学賞は、中央銀行の総裁が集まった際の話のネタの一つでもある。国際決済銀行(BIS)の中央銀行総裁会議は、公式会合の場では、事務局がまとめた経済状況などを基に各総裁が議論するのだが、会議後の夕食会ではフランクな会話で盛り上がる。経済や金融といった堅い話はあまりしないため、ノーベル経済学賞はいい題材になるのだ。
面白いのは、米国や欧州、アジアや中南米など、国ごとに政治や経済規模、法規制などが異なるため、同じ経済理論であっても影響や評価が変わることだ。各総裁のさまざまな視点の話を聞くことができ、とても興味深かった。ちなみに、そうした席で一番盛り上がるのは、政治家の悪口である(笑)。







