情報を奪い合う「殴り合い」と協力者の真実

 では、身内すら信用しない諜報員たちは、どのようにして外部から有益な情報を得ているのか。情報戦はよく「狐と狸の化かし合い」と表現されるが、本郷氏は「プロ同士の情報交換は、探り合いというより『殴り合い』に近い」と語る。

「情報に『10対0』や『1対0』の試合はありません。こちらが何も情報を出さずに相手から情報を得ることは不可能ですし、そんなことをすれば二度と会ってもらえません。理想は、こちらが『1』の情報を出し、相手から『2』の情報を引き出す『2対1』の勝利です」

 この「殴り合い」を制するためには、事前の準備が欠かせない。本郷氏は、本やインターネットなどの公然情報(OSINT)を常に読み込み、圧倒的な知識を蓄積しておくのだという。「相手に『こういう話がありますよね』と公然情報をぶつけて、相手の反応を見る。それを否定したとしても、それは『相手はそう見ていない』という一つの重要な情報になります」

 さらに本郷氏は、「情報に『これが機密です』と名札がついているわけではない」と指摘する。例えば、同業者から「○○について調べているんだけど、知っている人いない?」と聞かれた場合、その「○○について探っている人間がいる」という事実自体が、プロにとっては重要な情報になる。日常の会話の断片すらも武器になるのが情報戦のリアルである。

 プロ同士の交渉が「知的な殴り合い」だとすれば、一般人を協力者に仕立て上げる手法はより泥臭く、心理的な隙を突くものになる。同じく元警視庁公安部で外事警察として活動し、『VIVANT』で公安監修を務めた勝丸円覚氏によれば、外部の協力者(モニター)を獲得する際は「基本調査(基調)」と呼ばれる徹底した身辺調査が行われるという。

「半年ほどかけてターゲットの生活や趣味、経済状況を調べ上げます。もし多額の借金があったり、何らかの違法行為(弱み)があったりすれば、そこにつけ込み、恩を売る形で協力者に仕立て上げるのです」

 しかし、ドラマのように明確な契約を結ぶ者ばかりではない。本郷氏によれば、自分が情報を提供している自覚がないまま利用されているケースも多いという。

「日本にはCIAのエージェントが1万人はいると言われていますが、その多くはお金をもらってスパイ活動をしているわけではなく、日常の会話の中で無自覚に情報を引き出されているのです」

 プロは「これを調べてくれ」とは言わず、相手に協力者としての自覚を持たせないまま情報を吸い上げるのだという。読者の周囲にも、知らず知らずのうちに情報を流している人間がいるかもしれない。

 さらに恐ろしいのは、金銭や名誉が絡んだ際の嘘だ。

「情報がなくなってくると、人は金のために平気で嘘をつきます。過去には、ある情報協力者が『自分は情報通だ』という名誉と金の欲しさから、長期間にわたって捏造した情報を流していた事件もありました。後から仲間内で情報を精査し、裏付けを取った結果、全て嘘だったと判明したのです」

 人間関係や情ではなく、相手の弱みを握り、情報の価値のみで取引を行う。それが、現実の協力者運営のリアルである。