だが、買収合意から間もなく、米食品医薬品局(FDA)がランバクシーのインド工場で製造された医薬品の輸入を禁止した。その後、品質管理や試験データに関する重大な問題が明らかになった。

 2013年にはランバクシーの米国子会社が虚偽説明などについて有罪を認め、民事・刑事合わせて5億ドルを支払うことで米当局と合意した。

 第一三共は約4500億円という巨額の損失を計上し、最終的に2015年、ランバクシーをインドのサン・ファーマに統合させて同事業から撤退した。第一三共は元株主による重要情報の隠蔽などを問題として国際仲裁を申し立て、2016年には約562億円相当の支払いを命じる仲裁判断を獲得した。

 もっとも、第一三共はサン・ファーマ株式の売却によって相当額を回収しており、買収資金のすべてを失ったわけではない。それでも、世界的なジェネリック医薬品企業を手に入れようとした戦略が頓挫したことは間違いない。

 この問題はインド政府の規制によって起きたものではない。直接の原因は、買収先企業の品質管理と情報開示に関する問題だった。

 ドコモは少数出資、第一三共は買収と形は違う。だが、いずれも出来上がった現地企業に資本を投じ、自ら事業を動かしたわけではない点で共通している。有力財閥や大手企業と組んでも、それだけでリスクは消えないのである。

経済自由化後も残る負の遺産「ライセンス・ラジ」

 ドコモの事例の背景にあるのが、インド独特の「ライセンス・ラジ」という歴史である。

 ライセンス・ラジとは、独立後のインドで長く続いた、政府による産業活動への厳格な許認可制度を指す。企業が工場を建設する、生産能力を増強する、新しい事業を始める。そうした経営判断の多くに政府の許可が必要だった。

 インドは1947年の独立後、国家主導の経済発展を進め、輸入代替工業化を目指した。その過程で官僚機構が企業活動に深く介入する制度が形成された。

 1991年の経済自由化で、産業許認可制度の大部分は撤廃された。したがって、現在のインドが当時と同じライセンス・ラジの下にあるわけではない。