序章:マッキンゼーとは何者か――「ザ・ファーム」の神秘性 1

 JPモルガン・チェースの会長兼CEO(最高経営責任者)ジェイミー・ダイモンは、大学を卒業してからビジネススクールに入るまでの2年間、コンサルタントとしての仕事を経験した。彼はその経験をたいしたものと思っておらず、それ以来コンサルタントを見下している。

 私が彼の伝記を書くためのインタビューをしていたとき、彼は「あれ(コンサルタント)は、経営陣の代役だ」と言った。「雑誌『グッド・ハウスキーピング』が押す太鼓判みたいなもので、決断したのが自分だったとしても、『私の責任ではない、彼らの責任だ』と言い逃れができる……コンサルタントは企業経営の病になりかねないと思う」

 ダイモンは、ウォール街が苦境にあった2008年にも銀行をうまく舵取りし、傑出した投資家だともてはやされた。とはいえ、4年後には彼自身も50億ドルの損失を出すという苦境に陥ったが。彼が言うコンサルタントの法則には、1つだけ例外がある。ほとんどのコンサルティング業務には払った料金に見合う価値がないが、マッキンゼー・アンド・カンパニーだけは本物だというのだ。

 2012年、どうやって政府の規模を縮小するのかという質問を受けた共和党大統領候補ミット・ロムニー(かつては自分自身もコンサルタントだった)は『ウォール・ストリート・ジャーナル』編集委員に対して、「私なら……少なくとも、マッキンゼーから導入するようにと助言された組織を設けます」と答えた。ロムニーは聴衆が驚いているのを見て、「いまのは冗談じゃありませんよ。たぶんマッキンゼーに加わってもらいます」と付け足した。

 ほぼ1世紀の歴史を持つマッキンゼー・アンド・カンパニーは、次に挙げるさまざまな功績の功労者だと言うことができる。彼らはロムニーが大統領に立候補するずっと以前にホワイトハウス内の権力構造を作り替え、大規模な企業再編成で第2次大戦後のヨーロッパを導き、バーコードの発明を手助けし、ビジネススクールに大変革を起こし、さらには、経営ツールとしての予算管理という考え方を生み出した。

 何よりもまず、マッキンゼーは企業や政府のコンサルタントとしてさまざまな企業活動を作り出し、また維持することで、私たちがいま生きている世界を形づくった。そしてトップによる意志決定の際に不可欠な存在になっていくあいだに、彼ら自身がこの時代のビジネスの最大のサクセス・ストーリーとなった。またそれだけでなく、私たちが思い描くアメリカ資本主義を創出し、世界のあらゆるところに広げる役割を果たした。

 抽象的でホワイトカラー的な特質を持つ現代ビジネスにおいて、経済の最大価値はいまや、空調の効いた高層ビルやオフィスビルに陣取り、情報を操作している人々によって作られているが、そこには、マッキンゼーが尽力して確立し、擁護し、利益を得ているという現実がある。マッキンゼーの専門知識が信頼できるという最も強力な証拠は、彼らの会社自体にある。彼らはみずからの助言に従い、権力と威信といううらやまれる地位を手に入れたのだ。

 しかし同時に、小さな会社であったら破滅したであろう、さまざまな過失や大失敗をおかしてきたという責任もある。マッキンゼーのコンサルタントは、GM(ゼネラルモーターズ)が破産したとき、その場にいた。Kマートが大混乱に陥ったときも、その助言者だった。スイス航空を崩壊に導いた。そしてエンロンという爆弾を作りあげる決定的な役割を果たし、この会社が大爆発を起こす瞬間まで巨額の報酬を手に入れつづけていた。

 だが、このような災難が新聞に大きく書き立てられたりするのは、ごく少数の不幸なクライアントの場合だけだった。ほかの多くのクライアントは、株主への支払い減額や不必要なレイオフ、さらには破綻をうながす助言に対して、気前よく支払いをしてきた。それなのに、コンサルタントが間違った助言をしたと責められることはほとんどない――少なくとも、公の場ではない。

次回の掲載は明日9月26日です。引き続き9月20日刊行のダフ・マクドナルド著『マッキンゼー――世界の経済・政治・軍事を動かす巨大コンサルティング・ファームの秘密』の序章を公開していきます。


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