元阿久根市長の取材で感じた後味の悪さ
首長の専決処分はどこまで許されるか

 取材後に後味の悪さが猛烈に募ることがある。そのような経験を首長へのインタビューで強いられたこともある。一方的に自説を語り続け、こちらの質問に全く耳を傾けてくれないケースなどだ。

 まるで、食べたくもないものを口の中に大量に詰め込まれるようで、辛かった。言葉のキャッチボールが成り立たず、取り残されたような空疎感が残るのである。そんな忘れたくとも忘れられない苦い体験の1つに、鹿児島県阿久根市の竹原信一市長(当時)への取材が挙げられる。2010年夏のことだ。

 議会と壮絶なバトルを展開した竹原市長は、公約実現のために前代未聞の荒業を繰り出した。議会を招集せず、専決処分を乱発したのである。専決処分とは、「特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕のない場合」や「議会が議決しない場合」などに首長が議決に代えて処分(決定)を行うもの。あくまでも例外的な措置であり、地方自治法は首長に議会の事後承認を義務付けている。

 竹原市長はこの専決処分に着目し、職員ボーナスの半減や議員報酬の日当制(1日1万円)、固定資産税の減税、副市長の選任など19件を議会の議決なしで処分した。自らが議会の招集を拒否した上での専決処分であり、法の規定から逸脱していた。首長の大暴走というべきものだった。

 そんな騒動の真最中にご本人を直撃取材すると、「市長公約に何でも反対する議会は不要」「(阿久根市では)これまでも専決処分はいくつもなされている」「市民の今日明日の生活を守るためだ」などと自信満々に語った。そして、「(専決処分が)議会に事後承認されなかった場合どうなるか知っているか」と、逆質問してきた。

 地方自治法では事後承認を義務付けているが、議会の承認がなされなかった場合の規定は存在しなかった(その後、法改正される)。つまり、議会の承認が得られなかった場合でも、専決処分の効力に影響なしというのが通説だった。こうした法の盲点(欠陥)を承知した上で、専決処分の乱発に出たのである。

 市長への直撃インタビュ―後、「開会すべき議会を開かずに行った専決処分は、明らかに法律違反だ」と報じたところ、猛烈な抗議が寄せられた。その後の推移の詳細は省略するが、阿久根市のトップは交代し、地方自治法も2012年に改正された。専決処分の対象を限定し、不承認された場合、首長に必要な措置を講ずるよう義務付けた。