アップルがサンフランシスコで3Gバージョンの新しい「iPhone」を発表したそのまさに6月10日、ベルリンではヒューレット・パッカード(HP)が、なんと50もの消費者向けパソコン関連製品をお披露目していた。
アップルほど熱狂的なファンを生み出すユニークな魅力には欠けるものの、1対50という新製品の数の圧倒的な違いはHPの確かな底力を見せつけるものだった。
これはまた、HPが「失われた10年」から蘇りつつあることを証明した出来事でもある。1999年のカーリー・フィオリーナ前CEOの就任後、2001年のコンパック買収を経て、HPでは株主争議や経営トラブルが相次ぎ、「混乱したメーカー」という印象を市場に与えるばかりだった。
2000年当時パソコンの市場シェアで1位にあったコンパックを3位のHPが買収することで市場トップに立つはずが、混乱の間隙を突いたデルに先を越され、雌伏の状態は数年続いた。だが2006年になって、HPは1位の座を奪い取り、それ以外にもさまざまな新機軸を打ち出し始めたのだ。
現在、世界のパソコン市場のシェアは、HPが18%でトップ、デルが15%で2位。その後からエイサー、レノボ、東芝、アップルなどが追い上げている。HPが1位に立ったのも、格安のパソコン直販モデルを打ち出したデルがここ数年顧客サービス面で評判を落とし、伸び悩んでいたためだ。
デルは、それを改善するために、顧客と直接顔を合わせる店舗販売も開始したが、一方のHPの最近の戦略は、単なる低価格パソコン路線からの差別化を図っていることが注目される。
それを物語るのは、2006年のヴードゥーPCの買収だ。ヴードゥーは、ゲーマーや一部のギークに人気の高いハイ・パフォーマンスPCのメーカーで、この買収は「堅物なアウディがスポーツカーのランボルギーニを買収するようなもの」と言われていた。
値段はやや高いが、スタイリッシュで精密に設計された性能抜群のマシーン。今年発表されたラップトップ「ヴードゥーEnvy133」は、アップルの超薄型機「MacBook Air」に真正面から対抗するモデルである。
製品だけではない。HPは、アップルストアと同じようなブランド・ショップを計画中とされる。白くすっきりした店内に、HPの製品が浮かび上がるような演出で、まずはロンドンの有名デパート、ハロッズにHPブティックを出店し、その後アメリカの小売りチェーン、マイクロ・センターにミニショップとして展開する予定だ。これまでとは違ったスタイルのマーケティングに注力する気配が、HPには感じられるのだ。