阪急阪神ホテルズやザ・リッツカールトンなど、有名ホテルで起きた食材の偽装・誤表記問題を皮切りに、様々なホテル、飲食店、百貨店などで同様の疑惑が発覚し、騒動は想像以上の広がりを見せた。10月中旬から11月下旬にかけ、食材の偽装・誤表示を公表した有名企業の数は、30社を超える。これらの企業の現場には、いったいどんな問題があったのか。消費者の「怒り」の根源はどこにあったのか。そして過ちが繰り返されないためには何が必要か。騒動が一段落した今、改めてその教訓を考えたい。企業倫理・行動倫理学に詳しい水村典弘・埼玉大学経済学部 大学院経済科学研究科 准教授に騒動の論点を聞いた。(取材・文/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

食材偽装騒動はなぜ起きてしまったか?
期待値が高いがゆえの「裏切られた感」

―― 一連の騒動のなかで、食材の偽装や誤表示が発覚した有名企業の数は30社を超えます。同業者の謝罪会見に危機感を感じ、自ら問題の公表に踏み切った企業もありますが、これほど多くの偽装・誤表示が炙り出されたことからも、消費者の怒りは相当なものだったことがうかがえます。一連の騒動の背景をどう分析しているか、聞かせてください。

みずむら・のりひろ
埼玉大学経済学部 大学院経済科学研究科 准教授。博士(商学)。1974年生まれ。東京都出身。明治大学大学院商学研究科博士後期課程修了。2005年より現職。研究分野は「企業と社会」、研究課題は企業倫理など。著書に『現代企業とステークホルダー~ステークホルダー型企業モデルの新構想~』(単著)、『ビジネスと倫理~ステークホルダー・マネジメントと価値創造~』(単著)、『大正に学ぶ企業倫理~激動する時代と新たな価値観の芽生え~』(日本取締役協会編)など。

 問題の争点は、メニューやラベルに表示された情報とは異なるものが実際には提供されていたという事実です。メニューやラベルを見て料理を注文した消費者の期待を裏切る結果となり、消費者が「騙された」と感じたことが深刻な問題につながりました。

 ただ、今回の件は、過去における賞味期限切れ食材の提供事件や食中毒事件といった、「食の安全」を脅かす事件ではなく、健康被害はほとんど確認されていません。一連の騒動で、消費者が企業により深い倫理観を求める傾向が、以前より格段に厳しくなったと感じています。

――施設のブランド価値の違いによって、「騙された」と感じた消費者の怒りの度合いも変わってくるものでしょうか。

 期待値が高いだけに、「裏切られた感」や「騙された感」も大きくなると思います。名の知れたホテルや百貨店のレストランの席に着けば、これから出てくるであろう料理への期待も高まるでしょう。場合によっては、10~15%前後のサービス料も一律にとられるので、接客サービスの基準点も上がります。ホテルや百貨店の側は、利用客の期待以上のものを提供する義務を負います。