「それで、M君はいま、どうされているんですか?」

 最近、そんな質問をよく受ける。

 約12年間引きこもっていた40歳代のM君から、「社会に出たい」「何かいい案はないでしょうか」などと打ち明けられ、彼が自立を目指して一進一退を繰り返す苦悩に向き合い続けた『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)を出版してから3ヵ月余り。

 M君と同じような状況にある当事者、関心のある人、あるいはメディア関係者の中にも、本を読んで、その後の彼の様子を気にかけてくれる人がいる。だから、そう聞かれるたびに、ほんわかとした人の心の温かみを感じるのだ。

 実は、この本には後日談がある。

 M君は自分のことが書かれた同書を読んだところ、まるで幽体離脱して上から自分の姿を見つめているかのように、自分自身を客観視できたというのだ。

 その後、M君はアパート近くのスーパーなどの求人募集を頼りに、アルバイトを探し始めた。

 結論を言えば、40歳代という年齢がネックになって、電話で話をした段階で面接も受けさせてもらえずに断られ続けたという。そのため、この冬も、仕事に就くまでには至っていない。

 とはいえ、12年間引きこもっていた当事者が、あきらめの境地から脱して、自らの意思で再びアルバイトに応募し続けたという行動自体、大きな第一歩だ。

 本人からこの話を聞いたとき、筆者も彼との3年間の一進一退ぶりを思い出して、少しばかり報われたような気がした。

 そんなM君が、こうポツリと言った。

「これからクリスマスにかけてが、1年でいちばんつらい時期なんです。彼女のいた経験がほぼ皆無なので、街に出ても孤独感に一層拍車がかかりましたね」

 きっと、こういう質問をされるのも嫌だろうと思って、あえて他の引きこもり当事者たちには確認していない。でも、当事者たちにとって、街にクリスマスソングが流れるこの季節が、もっともつらい時期だという話は、以前から聞いていた。