かつてベッドタウンとして名を馳せた住宅地で孤立し、ロスジェネ世代を象徴するような思いを抱えたある男性の現状を、今回は紹介したい。

 高度経済成長期の頃、あこがれの住宅地とされていたある郊外の私鉄沿線駅のアパートに住む30歳代の男性Aさんは、半年ほど前まで派遣社員の職を転々としていた。しかし、いまは身体を壊し、失業保険でアパートの家賃を払いながら、求人に応募し続けている。

「正直、自分以外の人間との接触を避けるようにしています」

 郊外の住宅地でも、こうして仕事に就くことができないまま、やがて外に出る理由がなくなり、地域に埋もれて引きこもっていく人たちは少なくない。

「死に場所は決めてあります」
ブラック企業に虐げられ続ける身体

「大阪で31歳の女性が餓死したニュースを見たとき、自分ごとのようにつらかったです。同時に、これからさらに増えるだろうなとも思いました。私も、死に場所は決めてあります」

 そう明かすAさんは、大学院を卒業後、一部上場企業に就職した。しかし、仕事の内容は新人のときからトラック運転手。しかも、1人で1日15時間近くもハンドルを持たされる状態が続き、数ヵ月で過労退職に追い込まれた。

 しばらく何もできない状態が続いた。復帰したのは、それからちょうど1年後のことだ。

 この4年余りの間は、アルバイトと正規雇用を行ったり来たり、転々とした。

「とにかく、ハローワークの求人のいい加減さに頭にきています。2回にわたって採用されたのですが、手取りが15万円台だったり、正社員のはずが、実際には日雇いの土方だったり…。散々でした」

 身体を壊しては会社を辞め、また働きはじめても身体を壊して辞める…という繰り返しだった。

「呆れたのは、ハローワークを通じて就職した会社が、退職後にいい加減な雇用保険の処理を行い、本来は1人に1つしかない保険番号が2つも存在していたことです。ハローワークに紹介されて、やっと面接までたどり着けても、ブラック企業ばかり。安心して働けるような職場はありませんでした」