2~3月は引っ越しの季節だ。卒業、入学、転勤、転職など、多くの人が新しい生活へ向けて準備を進める。そのときに、多くのケースで遭遇するのが「敷金」の問題だ。人が日常生活を続ければ、どんなに気をつけていても床や壁が汚れたり傷んだりするものだ。そしてそれは入居時に支払った敷金から引かれるもの、つまり借主負担という認識があるが、果たしてそうなのだろうか。大家と管理会社に騙されないための、敷金の知識を解説してもらった。(弁護士・大平興毅、協力・弁護士ドットコム)
誰もが何となく支払っている
「敷金」を法律的に解説すると……
「賃貸マンションの退去時に、敷金から不当に高いクリーニング代金を差し引かれました。到底納得いく金額ではないですが、貸主の差し引いた金額を負担しなければならないのでしょうか? また、礼金については退去時に返還されないのでしょうか?」
また、今年もこの時期がやってきた。3~4月にかけては、卒業や入学、異動、転勤などが多くなり、引っ越しに関するトラブルも増えてくる。とりわけ最近多いのが、敷金関係のものだ。
そこで、まずはマンションに入居する際に支払う敷金・礼金について、法律的な意味を確認しておこう。
「敷金」とは、入居に際して借主が貸主に支払う金員であり、借家契約が終了して借主が建物を明け渡した後、未払賃料や原状回復費用等を差し引いた残額が借主に返還される。つまり、明け渡し時点までの担保として借主が貸主に預けておくものが敷金である。「保証金」と表現される場合があるが、これも一般的には「敷金」と同じである。
「礼金」とは、入居に際して借主が貸主に支払う金員であることは敷金と同様だが、貸主に対するお礼の趣旨で支払われ、返還を要しないものと一般に解されている。したがって、冒頭の事例でも礼金の返還請求は難しいだろう。
敷金は、退去時に差引精算され、その残額が借主に返還されるが、トラブルの種は返還される金額についてだ。典型的には、貸主が敷金から差し引くことのできる原状回復費用の範囲について争われることが多く、古くから裁判例の蓄積があるものの、未だ原状回復を巡るトラブルは増加していると言われる。
近年、最高裁判所が、敷金にかかわる論点について重要な判断を示していることもあり、今日においても重要な法律問題といえるだろう。