2008年3月4日にオーストラリア準備銀行は政策金利を0.25%引き上げ、7.25%にした。2007年8月に欧米でサブプライム問題が勃発してから、同行は計1%もの利上げを行なっている。
オーストラリア準備銀行のG.スティーブンス総裁(1958年生まれ、50歳)は、1980年から同行に勤務しているたたき上げのセントラルバンカーである。だからインフレファイターの度合いが強くて2007年来利上げを強行している、というわけではない。
資源価格の上昇で同国の輸出(石炭、鉄鉱石など)は活況を呈し、労働市場はタイトになっている。4日の声明文は、国際金融市場は脆弱な状態が続いており、また、消費の伸びはやや緩やかになってきたことを認めている。しかし、「中期的に見てインフレ率を落ち着かせ、引き下げる」ためには利上げが必要だったと説明している。
一方、対照的に、カナダ銀行は同じ3月4日に0.5%の利下げを決定した。政策金利は3.5%になった。資源価格の上昇は同国内の需要を刺激しており、良好な雇用状態は賃金を増加させている。しかし、カナダ経済は米国経済との相関関係が非常に強い。米国への輸出は、米経済の失速とカナダドルの対米ドルレート上昇によって打撃を受けている。しかも、1月時点の同行の予測よりも、米経済のスローダウンは、深く、長いものとなっているという。
カナダ銀行のM.J.カーニー総裁は、驚くなかれ1965年生まれの42歳である。同氏は、オックスフォード大学で経済学のPh.D.を1995年に取った後、ゴールドマン・サックスに13年間勤務した。2003年8月に38歳でカナダ銀行副総裁に就任するが、15ヵ月後の2004年11月に大蔵省幹部(官僚のナンバーツー)に任命され、カナダ銀行をいったん離れる。そして、2008年2月1日にカナダ銀行総裁に就任した。
若いカーニー氏だが、同行の歴史においては2番目の若さだという(ちなみに、福井俊彦・日本銀行総裁は72歳、武藤敏郎副総裁は64歳)。カナダでは中央銀行の役員会が新総裁を選び、首相がそれを承認する。新総裁の就任前に、その人物を議会の公聴会に呼んだり、承認の投票を議会で行なったりする制度はない(議員は不満のようだが)。
金融市場が混乱している今のような時期には、通常はサプライズ人事ではなく、経験豊富な人が任命されるケースが多い。しかし、前総裁は、若さによる経験不足よりも、米投資銀行での経験を評価したようだ。中央銀行総裁の人選は国によってさまざまである。
(東短リサーチ取締役 加藤出)