ひとくちにリーダーといっても、社長から現場の管理職まで様々な階層がある。抱えている部下の数や事業の規模もまちまちだ。自分の悩みが周りと同じとは限らず、相談する相手がいなくて困っている人も少なくないだろう。そんなときに参考になるのが、ゴールドマン・サックスなどの外資系金融で実績を上げたのち、東北楽天ゴールデンイーグルス社長として「優勝」と「収益拡大」をW達成した立花陽三さんの著書『リーダーは偉くない。』だ。本書は、立花さんが自身の成功と失敗を赤裸々に明かしつつ、「リーダーシップの秘密」をあますことなく書いた1冊で、「面白くて一気読みしてしまった」「こんなリーダーと仕事がしたい」と大きな反響を呼んでいる。この記事では、同書の一部を抜粋して紹介する。

リーダーが「自信」をもつために、「実績」よりも大事な“たった一つ”のこととは?写真はイメージです Photo: Adobe Stoc

「東北のためって、本当か?」

「どこか、しっくりこない……」
 実は、東北楽天ゴールデンイーグルスの社長になってしばらくの間、僕はずっとこのような感覚にとらわれていました。

 東北楽天ゴールデンイーグルスは、日本で唯一、チーム名に「東北」を掲げて戦うプロスポーツ・チームです。その名に恥じることなく、名実ともに「東北の球団」として認めていただけるよう、全力をあげているつもりではいました。

 東北6県のお祭りにはすべて僕自身も参加させていただき、青森の「ねぶた祭り」では張り切りすぎて肉離れしたこともありますが、それ以外にも、とにかく東北各地に直接足を運んで、一人でも多くの地元の方々とコミュニケーションをとることを心がけていました。そして、心優しい東北のみなさんは、温かく受け入れてくださっていたのです。

 だけど、社長に就任した2012年当時は、その前年に発生した東日本大震災の傷が生々しく残っている状態でした。
 そのような状況のなか、東京生まれ、東京育ちの僕が、いきなり東北の球団の社長に就任したことに対する“負い目”のようなものもあったのか、「どこか、しっくりこない」というか、「どこか、自分が偽物のような気持ち」を拭い去ることができませんでした。

 どんなに「東北のため、東北のため」と言ったところで、結局は、球団を「黒字化」することによって、経営者として評価されたいだけなんじゃないの? そんな自分が社長を務めている楽天野球団が、本当に「東北の球団」として認められるのか? そんな声が、自分のなかにずっとあったのです。

 実際、そこにビジネス上の思惑があったのも事実でした。
 東京都(約1300万人)、神奈川県(約900万人)、愛知県(750万人)、大阪府(880万人)など人口が集中している大都市圏に本拠地を置く球団とは違い、楽天野球団が拠点を置く宮城県の人口は約230万人ですから、そこだけに集中していては球団経営を成立させるのは困難。東北6県にお住まいの1000万人の方々に応援していただくことは、「黒字化」を達成するうえで不可欠なテーマなのです。

 そのような事情が背景にあったため、なおさら、僕は自分の「本心」に自信がもてずにいたのです。

「避難所」に閉じ込められた子どもたち

 ところが、ある時、そんな僕に転機が訪れました。

 2013年のある日のことです。
 僕は福島県の佐藤栄佐久知事(当時)に表敬訪問させていただくことになっていたのですが、ちょうどその日の地元紙・福島民報に、「福島県の子どもの肥満率が全国トップ」という記事が出ていたので、知事にお目にかかったときにその背景を詳しく教えていただいたのです。

リーダーが「自信」をもつために、「実績」よりも大事な“たった一つ”のこととは?立花陽三(たちばな・ようぞう)1971年東京都生まれ。小学生時代からラグビーをはじめ、成蹊高校在学中に高等学校日本代表候補選手に選ばれる。慶應義塾大学入学後、慶應ラグビー部で“猛練習”の洗礼を浴びる。大学卒業後、約18年間にわたりアメリカの投資銀行業界に身を置く。新卒でソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。1999年に転職したゴールドマン・サックス証券で実績を上げ、マネージング・ディレクターになる。金融業界のみならず実業界にも人脈を広げる。特に、元ラグビー日本代表監督の故・宿澤広朗氏(三井住友銀行取締役専務執行役員)との親交を深める。その後、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に引き抜かれ、数十人の営業マンを統括するも、リーダーシップの難しさを痛感する。2012年、東北楽天ゴールデンイーグルス社長に就任。託された使命は「優勝」と「黒字化」。星野仙一監督をサポートして、2013年に球団初のリーグ優勝、日本シリーズ制覇を達成。また、球団創設時に98万人、就任時に117万人だった観客動員数を182万人に、売上も93億円から146億円に伸ばした。2017年には楽天ヴィッセル神戸社長も兼務することとなり、2020年に天皇杯JFA第99回全日本サッカー選手権大会で優勝した。2021年に楽天グループの全役職を退任したのち、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の創業者・鎌田秀也氏から相談を受け、同社社長に就任。すでに、仙台店、東京銀座店などをオープンし、今後さらに、世界に挑戦すべく準備を進めている。また、Plan・Do・Seeの野田豊加代表取締役と日本企業成長支援ファンド「PROSPER」を創設して、地方から日本を熱くすることにチャレンジしている。著書に『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)がある。