2006年12月に貸金業法が改正、公布され、政府が多重債務問題解決に本腰を入れてから、1年半が経過した。だが、法改正の議論当初からあった批判は依然としてくすぶっている。むしろ、景気後退がささやかれるにつれて、メデイアで目立ち始めたように思える。

 政府批判のポイントは、集約すると2つある。第一に、貸金業法改正などによる規制が経済を悪化させている。“官製不況”を引き起こした元凶の一つとなっている。第二に、多重債務者は決して減っていない。地下に潜り、ヤミ金融被害はむしろ拡大している。この2点である。

 この2つの批判的主張(一部与党政治家や学者も加わっている)が――意図的なのか無知なのか――多重債務問題の本質からそれ、あるいはすり替わってしまっていると、強い違和感を覚えるのは、私だけだろうか。

 第一の官製不況元凶論では、建築基準法改正、金融商品取引法改正と並んで「貸金業法改正」が槍玉に挙げられるのが常である。

 上限金利の規制、債務者一人当たりへの貸出総額の規制などを盛り込んだ貸金業法の改正によって、消費者金融業界は揃って業績が大幅に悪化、中下位グループでは倒産が相次ぎ、再編淘汰が進んでいる。

 また、上限金利の引き下げなどによって信用度の低い中小零細企業が融資を受けられなくなり、運転資金に事欠き、資金繰りに窮して事業が継続できなくなった、と言われている。

 つまり、官製の規制によって、貸し手の消費者金融業界、借り手の中小零細企業ともにビジネス機会を奪われ、それが不況を引き起こす一因になっている、という批判である。

 確かに、淘汰再編は当事者の消費者金融業界にとっては大問題であろう。だが、それがマクロ経済に与える影響が甚大だとは、専門家で認めるものはいまい。

 また、中小零細企業が官製規制によって倒産させられている、という指摘については、統計データによって裏づけされているわけではない。例えば、改正建築基準法の景気への悪影響は、その規模、構造ともにデータによって検証されている。その明白さと比べれば、あいまいな批判と言わざるを得ない。

 国土交通省が事前規制に立ち戻ったことで市場メカニズムが機能不全となって引き起こされた建築基準法改正による官製不況(当コラム第25回 市場主義アレルギーが「官製不況」を助長する)とは、明らかに違う。