白川方明新総裁率いる日本銀行政策委員会は、4月30日発表の「展望レポート」で、金利運営スタンスを従来の「緩やかな引き締めスタンス」から、事実上の「中立」に戻した。白川総裁は「現在のように不確実性がきわめて高い状況の下で、(金利運営において)あらかじめ特定の方向性を持つことは適切ではない」と述べている。
米株式市場を中心に、米金融システムの問題は底打ちしたという楽観論が4月後半に急速に金融市場で広まった。しかし、日本の1990年代後半以降の経験に照らし合わせて日銀は考えるだろうから、彼らは株式市場ほど米国の状況を楽観していないと思われる。米実態経済の悪化が金融機関の資産毀損として跳ね返ってくるリスクもある。欧米の短期金融市場には依然として、強いストレスが観察できる。金融機関はいまだにお互いの財務内容に疑心暗鬼を抱いている。
日銀が利上げに転じるのは当分先だろう。現在の政策金利(オーバーナイト金利0.5%)は1年以上継続される可能性がある。
一方、4月30日にFRBのFOMCは0.25%の利下げを決定した。前回の声明文で使われていた「成長の下方リスクは残っている」というフレーズが今回は消えた。これが、FRBがひとまず様子見に入ることを暗示している。
だが、声明文には金融市場に顕著な緊張が残っているとも記されていた。FRBも米金融システムを楽観視していないことがわかる。
また、10月にFRBは楽観的な声明文を発表してしまった苦い失敗経験を有している。不確実性が高い現在のタイミングで、先行きの政策の方向性を明示するのはギャンブルに近いと考えているようだ。その点では、4月30日に日銀とFRBが市場に示した態度は、きわめて似ていたといえる。
FRBは、経済の停滞が続くならば、コアインフレ率は穏やかに推移すると見ている。しかし、食品とエネルギー価格の上昇が米国民のインフレ期待を押し上げている。コストコやサムズ・クラブといった大手小売店は、コメや大豆油の販売制限を開始した。そういった報道も米国民の不安を増幅させているようだ。1年後の物価上昇予想が18年ぶりの高水準を記録した調査も出ており、FOMC声明文でも警戒が示された。
日本ではバブル崩壊後に資産デフレと一般物価のデフレが現れた。一方、現在の米国では、住宅価格の下落とインフレ予想の高騰が共存する。日本にはなかった経験だ。利下げはいったん停止される可能性が高いものの、FRBはきわめて難しい状態に直面している。
(東短リサーチ取締役 加藤 出)