オリンピック招致の最終プレゼンを契機に、各所で注視されている「おもてなし」。日本人の細やかな心づかいを製品、サービスに反映させて収益向上につなげようと考える企業は多いと思うが、そこに落とし穴はないか?グロービス経営大学院の山口英彦が近著『サービスを制するものはビジネスを制する』のコンセプト等も反映させながら問いかける連載、第2回。
定型化、標準化された接客は一見「おもてなし」と縁遠く思えます。実は標準化こそが、本当に質の高いおもてなしにつながります。
今回は、おもてなしとは相性が悪いと思われがちな「標準化」について書いてみたいと思います。こぢんまりした家族的な経営から、大勢のお客様をもてなす本格的な企業経営へと一段上がるには、「標準化」を飲み込んでいかないと難しいですよ、という話です。
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まずは、筆者の普段の仕事の風景から始めましょう。
読者の皆さんも新しい顧客企業とお付き合いが始まった際、その企業のことを理解しようと色々工夫されると思います。筆者の場合、クライアント企業に初めて出向いた際には、その企業のカルチャーや長所・短所を見極めるために、出会った従業員に決まって投げかける質問が幾つかあります。そのうちの1つが、「最近手応えを感じた仕事は何か?」です。この問いに対する答えは人によって様々で、「社内のプロジェクトに貢献できた」だったり、「自分の提案でお客様が喜んでくれた」だったりです。
けれども、続く私からの「その仕事に手応えを覚えたのは何故ですか?」という質問への答えは、おもてなしを標榜する企業では驚くほどに共通しています。「自分ならではのアイデアだった」や「自分ならではの対応ができた」といった具合に、大抵の従業員が「自分ならでは」という点を強調してきます。(ちなみにメーカーや金融業で同じ質問を投げかけると、「画期的な技術を製品に盛り込めた」とか、「事業部の業績向上に貢献できた」といった答えが多くなり、「自分ならでは」の話は相対的に少ないように見受けます。)
おもてなしを標榜する企業で「自分ならでは」を強調する姿勢は、従業員のみならず現場を管理する側にも根強いようです。先の従業員の上司にあたる管理職の皆さんに「部下をどうやって育成するか?動機づけるか?」といった話題を振ると、かなりの確率で「その人らしい仕事をさせる」という答えが返ってきます。「自分は経営学にも心理学にも疎い」と謙遜される管理職の方が、なぜか「マズローの欲求段階説」を良くご存知だったりして、「最近の従業員の多くは安全欲求や所属欲求といった基本的な欲求は満たされているから、より高次の欲求である自己実現の機会を与えないといけない」なんて自説を披露されたりするわけです。