そのため、真っ先に人件費を削って利益を出し、その利益で自社株買いをして、1株当たりの利益が上がっているように見せようと、憂き身をやつしているのです。

 昨今、日本の企業にも、こうしたアメリカ流の経営感覚をまねする経営者が増えてきています。グローバル化の下で外国人投資家の持ち株比率が上がっている以上、仕方がない面もありますが、たいへん残念なことです。

 かつて「日本の経営者は10年先を考えて経営方針を立てる」と称賛されたものでした。1980年代から1990年代のアメリカ映画を見れば、そんなセリフがいくらでも出てきます。短期思考に陥ってはいけないということは、当時は世界の共通認識でした。

 それが、なぜ現在のように短期思考が幅を利かせるようになったのか。その理由を長々と説明するのは、ここでは措くとして、私はかつての日本の美点であった長期思考が、いずれ再びアメリカでも支配的になるだろうと考えています。

 その理由は、エネルギー価格の世界的な下落によって、これから先進国では「よいデフレ」が定着していくからです。

「よいデフレ」下では、株価がこれまでのように上がることはありません。強欲な株主の発言権は弱くなり、企業も1株当たりの利益を大きく見せるため、人件費を削って自社株買いの資金を捻出する必要がなくなります。

 アメリカでは過去20年以上、富裕層が株で資産を順調に増やしてきた一方で、株価を上げるための賃下げで中間層が激減してきた結果、極端に格差の大きな社会になってしまいました。しかし、「よいデフレ」の下では、その格差の緩和が大いに期待できるのです。