「機械化による農業での大幅な生産性向上により、米国は世界に食料を供給できるようになった。しかし、農業従事者数は大幅に減ったままだ。農業で起きたことが、製造業で起き始めている。ロボット、3Dプリンタによる生産性向上は製造業の雇用者数を世界的に減少させる。米国の未来の雇用は、製造業にはない」

 『機械との競争』の著者であるマサチューセッツ工科大学のブリニョルフソンとマカフィー、ニューヨーク大学のスペンス(ノーベル賞受賞者)が「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(14年第7号)に寄稿した論文も、デジタルテクノロジーの進展が世界の労働者に打撃を与える可能性を指摘している。

 人工知能、ロボット、3Dプリンタを駆使したオートメーション化潮流は、いずれ途上国の非熟練労働者を直撃する。さらにその動きは、製造業を超えたセクターへ広がりを見せていく。「こういった世界にあって、最も不足し、よって、最も価値ある資源は何だろうか。それは普通の労働でもなければ、普通の資本でもなく、新しいアイデアを考案し、技術革新を実現できる人々だ」。

 重要な財、サービス等がデジタル化され、それが低コストで瞬時に転送、複製化される市場では、少数のプレーヤーが利益の圧倒的多くを手に入れる。ほとんどの人は平均以下の所得しか得られない。経済全体がこのダイナミクスに支配され、国家や企業も、利益を取ることができる「ほんのわずかの勝ち組」と「圧倒的多数の負け組」に分かれるという。

 日本では現在、「円安になって工場の海外移転が低調になって良かった」「人手不足は問題だが、賃金が上昇し始めて良かった」と安堵する声が多く聞かれる。

 しかし、今後の熾烈なデジタルイノベーションの戦いに敗れると、国全体が「圧倒的多数の負け組」になってしまう恐れがある。それだけに、戦略を立てて臨む必要がある。

(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)