世界の「食べられない」を変えたい

出雲 私もいつか“Maybe I did it.”と言ってみたい。本を読んでいて、あのくだりはすごく感動しました。

 最後の質問なのですが、ノブさんはロサンゼルスのお店で、お客さんの気持ちに本当に親身に応え続けてこられた。時にはイカを食べられない子どもに、イカを美味しく食べさせてみせる。どうしてそこまでお客さんに寄り添うことができるのですか? ノブさんにとってお客さんとは、何なのでしょう?

松久 その男の子はお父さんといっしょに店へやって来ました。食事をしに来たわけですから、子どもも何か食べないといけないのですが、イカやタコは好きではないと言います。僕が「何が好き?」と聞いたらパスタが好きだと言います。そこで、イカのスタイルをパスタ風に変えて出してやろうと思ったわけです。

 イカに包丁入れて、シェルパスタのような形にして、炒めて出してみたんです。すると、彼は好物のパスタだと思って食べてしまいました。そして食べ終わった時に「それ、イカだよ」って教えてあげたんです。

出雲 その子はどんな反応をしたんです?

松久 それが面白いところです。もちろん、彼は驚いたのですが、今食べた料理が、それまで思っていたイカやタコの味とは違うことを知るのです。そして、それをきっかけに、彼はまた食べたいと思うようになるのです。

 僕のお店にはそんなお客さんがたくさんいます。作り方を工夫するだけで、生魚が食べられなかった人が、ウニやコハダを食べられるようになっていく。そうしたきっかけをつくるということ、これこそ海外で日本料理をやっていることのひとつの使命のように感じています。

 だから僕はお客さんに「食べられない」と言われると余計に燃えるんです。なんとか工夫して食べてもらおうと思うわけです。その食材が大好物な人もいるわけだから、アレルギーじゃない限り無理なはずはないと考えます。

 人が嫌いだったものを好きになっていく、あの瞬間はなにものにも代えがたいものです。それが刺し身一切れでも僕は嬉しいのです。「ノブがあれだけ言っているなら、食べてやるか」その一口から、新しい食との関係が、その人の人生で始まるのですから。

出雲 素晴らしいお話でした。ノブさんのお店で食べる美味しいものは、脳が喜ぶというか、普段使っていない脳細胞を刺激してくれます。そして今回のお話も、そんな刺激に溢れていました。お会いできて良かったです。

包丁一本の料理人と、試験管一本の研究者が語る哲学<後半><br />互いの著書を交換して。      photo: T. Usami
<取材協力:NOBU TOKYO

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