今年7月にアドビ システムズ日本法人の社長に就任した佐分利ユージン氏は、マイクロソフト日本法人でマーケティングの責任者として10年以上のキャリアを積んだマーケターである。「クリエイター御用達」の企業から、「クリエィティブ+マーケティング」の企業として大きく変貌する同社をどのように舵取りしていくのか。9月4日に行われた社長就任会見当日に単独取材した。(取材・文/ダイヤモンド・オンライン編集部 指田昌夫)
ソーシャルの破壊力を目の当たりにして
デジタルマーケティングへの道へ
1972年米国オレゴン州生まれだが、日本の横浜で育つ。ワシントン大学で学士号取得後、再度来日して徳間書店に入社。その後マイクロソフトに転職して、米国本社および日本法人で企業向けサーバーソフト、クラウドなどさまざまな分野でリーダー職を務める。とくにマーケティング分野で実績を積み、2005年~2009年には同社日本法人のCMO(最高マーケティング責任者)を務めた。2014年7月から現職。Photo:DOL
――佐分利社長は、前職のマイクロソフトでは日本法人のマーケティング責任者を務めました。マーケティングツールを使いこなす立場から、アドビに移籍して今度はマーケティングツールを売る企業の日本のトップになりました。「ユーザー」としての経験は強みになりますか。
佐分利ユージン(以下・佐分利) マイクロソフトに入社して数年は「デジタルマーケティング」という言葉も存在していませんでした。その後、さまざまなツールが登場して、それらをいち早く取り入れ、活用しなければいけない立場にいたのは間違いありません。
私がなぜ、デジタルマーケティングの分野に強い関心を持ったかというと、米国にいたころに、ビデオ配信サービスの「ネットフリックス」が値上げをしたときに利用者から大きな反発があり、結果的に加入者数が大きく減ったことがありました。あるいは、日本の自動車メーカーが消費者のソーシャルでの批判にたいへんな苦労している状況もありました。
私が勤めていたマイクロソフトでは、そのころ、ある製品の値上げを発表する準備を進めていました。しかし、これらの事件でソーシャルの破壊力を目の当たりにして、会社としてまったく準備ができてないことに気がつきました。そこで急きょ値上げの時期を延期して、一から対策をし直すことにしました。
この出来事を通じて、マーケティングのツールについて勉強する機会も得ましたし、デジタルマーケティングの重要性を再認識したのです。
具体的には、マーケティングは「オフェンス」「ディフェンス」の2種類が必要だと思うようになりました。需要を沸かすマーケティングと、なにか事件が起きたとき、広報の対応などとともに、デジタルでいかに迅速に対応できるかも重要になるだろうということです。それまでは、攻めることしか考えていませんでしたが、この値上げの時は、攻めるのと同じぐらいの力で守ることが必要だったのです。結果的に、対策したことで大きな問題を起こさずに値上げを乗り切ることができました。