米国の多国籍企業の行き過ぎた租税回避行動に対して、米国政府や議会は、警告を発したり、法規制を導入しようとしている。こうしたタックスプラニングの中にはわが国企業も関係しているものもあるが、わが国の対応は鈍い。海外への所得の移転を防止するためにも、わが国の高い法人税率は引き下げざるを得ないが、そうであるからこそ、同時に、企業の行き過ぎた租税回避には厳しく対応する必要がある。

買収の狙いは税負担の軽減

 これから年末にかけて、政府・与党で法人税引き下げに向けての議論が本格化する。消費税率を引き上げようという時に、どうして法人税を引き下げるのか、一般国民には素朴な違和感があり、政権はじっくり説明していかないと、アベノミクスへの支持に悪影響を与える可能性がある。

 法人税引き下げについては、この欄でたびたび取り上げたが、私の立場は、「先進諸国が法人税引き下げ競争をしている以上、わが国もそれに対応せざるを得ない。対応しなければ、わが国から外国への付加価値の流失が加速し、貴重なわが国の財源が流出する」というものである。

 大げさではないか、と思われる方も多いと思われるので、米国企業が米国で行っており中間選挙を控えた現在、大きな政治問題に発展しているタックスプラニングを説明し、それが、じわじわわが国にも浸透しつつあることを話したい。

コーポレートインバージョンとは

 本年4月に、米製薬会社大手のファイザー社が、英国の製薬会社アストラゼネガ社に買収提案し、世界最大の製薬会社が誕生か、と大きな注目を集めたことがあった。結局この買収劇は、撤回になったのだが、買収の最大のモチベーションは、合併により本社を英国に移転して、税負担の軽減を図るという点にあった。

 米国の法人税率が40%(ニューヨーク州税も含む)であるのに対して、英国は21%(地方税はなし)で、その差は大きい。

 このような多国籍企業の節税策は、「コーポレートインバージョン」(以下、インバージョン、本来なら本社が合併をするのだが、買収先が本社となるということで「逆」という意味)と呼ばれる手法で、企業の本店を、M&Aなどの組織再編により低税率国に移し、グループ全体の税負担を軽減させることである。