X'masがやって来る。一昔前に比べれば、最近のX'masは随分と地味になってしまったが、それでもやはりこの季節になれば華やいだ気分になってくる。そして、多くの人が、子どもや恋人などの大切な人に何をプレゼントしようか、悩む時期でもある。もちろん、そんな悩みが幸せだったりもする。
「プレゼントの経済学」(プレジデント社刊) |
しかし、人はなぜ、プレゼントするのだろう? プレゼントについて考えることは、消費と社会貢献の関係性を探るということではないか? ちょうどX'masのシーズンだし、そんなことを考えていると、一足早いX'masプレゼントが届けられた。「プレゼントの経済学」という本である。
これは、アメリカの経済学者ジョエル・ウォルドフォーゲル氏が書いた本で、多くの人がいかに「欲しくもないもの」「もらってもうれしくないもの」をプレゼントされており、その結果としてどれほど大きな経済的破壊が行なわれているか、について述べられた本だ。
世界全体のX'mas消費は20兆円。
その10分の1が無駄な消費!?
読者の皆さんにも「気持ちはうれしいけど、あんまり欲しくないモノ」をプレゼントされた経験がおありだろう。たとえば、北国に住む元カノが寒さをこらえて編んだセーターがX'masに届けられたとして、それで喜ぶ男性はほとんどいないだろう。また、幼い子どもというのは親やおばあちゃんに対して、けっこう多くのプレゼントをくれたりするものだが、しかし、そのほとんどはガラクタだ。プレゼントしようという、その気持ちはうれしいが、実用性はゼロ。筆者が娘からもらったプレゼントで最も実用的だったモノは、工作の時間に作った「青竹踏み」だったが、それでも3回くらいしか使わなかった。
娘から母親へ、こんなプレゼントもあった。小学校からの帰宅途中の娘がスーパーで「ママが大好きなモノ」を発見した。値段は100円。これなら自分のお小遣いで買える。興奮した娘は、その「ママが喜ぶに違いないモノ」を買い求め、自宅に飛んで帰り、息せき切ってママにプレゼントを渡した。それは「ヴィトン風のデザインの小銭入れ」だった。幼い娘には、それはママが大好きなルイ・ヴィトンの財布に見えたのだが、実際には100円という値段相応の、コピー品ですらない代物だった。
この小銭入れは、家族の幸福な思い出としていまだに捨てずに保管している。しかし、実用性はゼロだ。100円で買ったものが「実質的な価値」はゼロだったので、そこで100円の「価値の破壊」が行なわれたことになる。
ウォルドフォーゲル氏は経済学者らしく、このような「プレゼントが引き起こす価値の破壊」の実態を、各種の統計と調査結果から明らかにしていく。その数字は驚異的だ。なにしろ、世界全体でX'masに人々が使うお金は約20兆円。そのうち、約2兆5000億円分の価値が破壊されているという。アメリカ人だけでもX'masプレゼントに660億ドル使い、120億ドル分の価値が破壊されているという。日本円でおよそ1兆円分の損失だ。しかも、多くのアメリカ人は、プレゼント購入代金をクレジットカードで払っている。まさに「借金してでも無駄なプレゼント!!」状態なのである。
その他、同書では、プレゼントという「無駄」を通して、世界でどれほど多くの経済損失を生んでいるかを明らかにしていくが、もちろん、プレゼントが持つ情緒的なメリットを否定しているワケではない。ただ、ほとんどのプレゼントが無駄な消費を生んでいるのだから、もう少し、社会に役立つプレゼント消費を考えようと提唱している。そこで登場するのが「チャリティ・ギフト」だ。