今回のお題は「円安の損得勘定」である。おそらく、前世紀(20世紀)の産業構造が現在も引き継がれているのであれば、昨今の円安は、ニッポンの産業にとって「得」であったろう。

 ところが、先の民主党政権のもとで進んだ「超円高」によって、国内メーカーの生産拠点が海外へ次々と移転し、産業の空洞化が進んでしまったようだ。

 その証拠に、財務省が2014年8月に発表した『貿易統計速報(通関ベース)』によれば、貿易収支は26ヵ月連続で赤字だという。円安は、日本の産業に「得」をもたらさなくなってしまった。

 にもかかわらず、日銀の黒田総裁は「控えめな表現ながら『円安イコール善』という立場を崩していない」とされる(日本経済新聞「景気指標」2014年9月8日)。国の台所を預かる人の経済感覚は、筆者には想像もつかない。貿易統計やマクロ経済指標が現実感に乏しい、という事情もある。

 もっと卑近な例で、「円安の損得勘定」を検証してみたい。そこで今回は、日立製作所とセブン-イレブンのデータを拝借することにした。

日立製作所は輸出型?
セブン-イレブンは内需型?

 日立製作所は2014年3月期で、連結子会社947社、持分法適用会社231社を抱えており、日本最大のコングロマリットと呼んでも不思議ではない事業体だ。海外比率は45%に達している。

 これほどの企業集団ともなると、超円高や円安が、日立製作所にとって損なのか得なのかは、そうそうわかるものではない。

 セブン-イレブンはいわずと知れた、国内で最大のコンビニ店舗を擁する事業体だ。典型的な内需型とされ、輸出取引は行なっていないのだから、円安や円高にはニュートラルのような気がする。ただし、一日に何度も配送を行なうトラックの燃料代は、円安の直撃を受けているかもしれない。

 日立製作所は、電機業界に属する企業だから円安は得だろう。セブン-イレブンは、内需型だから円安には無関係だろう。などと文章だけで分析していては埒があかない。