閉じられた世界の営みに終わりがちな「おもてなし」を、課金につなげて収益化する、顧客開拓にもつなげて規模化するにはどうしたらいいか。前編では、顧客へのおもてなし価値の伝え方や、従来のマーケティングミックスに修正を加えた7Pといったアプローチを紹介してきました。後編は、顧客開拓策としてサービスビジネスとの親和性も高い、口コミによるマーケティングについて掘り下げるところから始めていきます。※この記事は、GLOBIS.JP掲載「マーケティングが苦手な「おもてなし」の扱い方 後編」(おもてなしで飯が食えるか?)」の転載です。

ネットの口コミと正しく向き合う

 口コミやBuzzマーケティングの具体的手法については専門書に任せるとして、ここでは口コミに関するありがちな誤解について触れておきましょう。まず、おもてなしを自認する企業(特に老舗ブランド)の中には「口コミは重要だが、ネット(レビューサイトやSNS)上の評判は気にしない(つまり大切なのはリアルでの口コミ)」という頑固な姿勢の企業が多いのに驚きます。根拠として彼らが挙げるのは、

・自社の売上の大半は常連客やその紹介客で成り立っているので、主に一見客が頼りにするであろうネットでの評判は、あまり商売に影響しない

・ネットでの評判は顧客の目に触れても信憑性が高いと思われていない。一方、対面(リアル)で伝えられる口コミは、受け手の行動に強く影響する

 というのが2大理由ですが、読者の皆さんはどう思われますか?

 前者に関して言えば、おもてなしで評価されている企業の売上が、常連客やその紹介客でだいたい6~8割を占めているのは、確かにその通りです。しかし、レビューサイトの評価は本当に影響していないのでしょうか。例えばリゾートホテルのアンケートで「当ホテルを知ったきっかけ」で「知人からの紹介」と回答する人が過半数だったとしても、彼らが最終決定に至るまでにネットでの評判を参照しないとは限りません。AIDMAとか、AISASといった消費者行動モデルを考えればわかるように、Attentionの段階では知人紹介だったとしても、InterestやSearchの段階ではネットの情報は影響力を持ちうるのです。おもてなしに限定した調査はまだ見たことはありませんが、最初の認知手段としてはテレビや雑誌、あるいは知人紹介が主力だったとしても、その後の意思決定段階ではネット(レビューサイトやSNSを含む)の口コミの影響力が他を凌駕しつつあるのは、多くの調査結果で確認されています。(※1)

 後者の「ネットの口コミは信用されない。リアルの方が影響が強い」というのも、一般的にはそう信じられていると思います。しかしこの認識もそろそろ改めるべき時が来ているかもしれません。例えば「非言語要素(笑顔だとか、声のトーンだとか)が受け手の判断に強く影響する」といった主張はよく耳にしますが、最近の研究の中には「ネットのような文字だけのコミュニケーションの方が、非言語情報を含む対面コミュニケーションよりも、製品やサービスの機能性を伝えるのに優れる」との報告もあるくらいです(※2)。他にも「対面の方がネットの口コミよりも伝達力に優れている」という従来の主張に疑問を呈する研究結果がいくつも出てきており、好き嫌いはあるにせよ、おもてなしの世界でもレビューサイトやSNSを顧客開拓の手段として取り込まざるを得ないと思います。

※1 例えば、日経Bizアカデミー「『共創マーケティング』の時代へ~『ソーシャル』で激変する市場戦略~ 第15回 消費者行動を変化させるソーシャルメディアの影響力」(電通ソーシャルメディアラボ)
※2 産業組織心理学研究 第22巻 杉谷陽子著「インターネット上の口コミの有効性:情報の解釈と記憶における非言語的手がかりの効果」