インタビュー後編の今回はわが国よりも先行して「新しい労働ルール」受容の道を選択してきた欧米諸国の状況から、日本はどのような形で「新たな労働ルール」を模索していくことができるのか、その過程で労使の関係、さらに歪みを生んでいる正社員・非正規社員の格差を公正なものとしていくために何をすべきなのかを、水町勇一郎・東大社会科学研究所准教授に聞いた。
(聞き手:辻広)
――では、どうして欧米諸国はそう変わってきたのでしょうか。
水町:社会の状況や価値観が多様化し、変化のスピードが速くなってきていることが、法制面での改革を加速化させているといえます。それに加えて、欧州では、英、仏、独で左派が立て続けに政権を取りました。政権を取った以上、労働者保護だけを叫んでいられなくなりました。経済的効率性、生産性も重視しなければなりません。どう両立させるか苦悩し、労使の集団対話重視に行き着き、それが第三の道と呼ばれるようになったのです。
――米国の変化の背景は。
水町:米国でもさまざまな議論が起きていますが、ポイントは2つ。
第一に、あまりに経済格差が広がったこと。1970年代以降、規制緩和、自由化を進め、80年代、90年代には労働法制にほとんど手を付けずに放置していたために、あまりに格差が広がったので、共和党政権下でも最低賃金の引き上げなど公正労働基準法を改正せざるを得なくなりました。
第二に、規制緩和、自由化によって経営者の自由度が広がりました。そのなかで、近視眼的な業績追求による行き過ぎた雇用調整、リストラが行われました。しかし、雇用調整を行ってみても生産性はそう簡単には向上しませんでした。
そのことから、生産性を上げるためには、近視眼的にコスト削減をするやり方ではなく、会社の現場のネットワークやコミュニケーションを重視し、従業員の定着率を高めるような雇用管理に力を注がなければならない、という考え方が広まってきたのです。