バーナンキFRB議長は5月13日の講演で、ドル短期金融市場は正常からほど遠い状態にあると指摘した。金融機関はお互いの財務内容にいまだ疑念を持っている。
このような環境下では、ターム物金利の低下を促すための長い資金供給オペと、日本銀行の売出手形オペのような短い資金吸収オペを組み合わせることが本来有効である。それによってオーバーナイト金利を安定させることができる。
FRBはこれまで28日物などの資金供給を空前の勢いで増加させてきた。しかし、そのままだと準備預金が増大し、フェデラルファンド金利(オーバーナイト金利)はゼロ%へ落ちてしまう。現在のFRBはフェデラルファンド金利の誘導目標を2%に定めている。
FRBは日銀のような売出手形オペを持たない。米国では中央銀行が銀行券以外に負債を発行することが法律をクリアするか不透明であるためだ。このため、FRBは保有してきた短期国債を3月以降すさまじい勢いで市場に売却してきた。資金を吸収して、準備預金の増加を抑制するためだ。短期国債の保有額が急減したため、最近は長期国債も売却し始めている。
だが、もし3月に見られたようなベア・スターンズ級の大型資金繰り危機が金融市場で再発したら、FRBは金融調節上の困難に直面する。FRBは資金供給をさらに増大させるが、資金吸収の手段が悩ましい。短期国債の保有額は前年に比べすでに76%も減り(5月7日現在)、売却余地は乏しい。
このため、長期国債を大規模に売却することになるが、それは長期金利を上昇させる恐れがある(固定モーゲージ金利が上昇すると住宅市場に悪影響を及ぼす)。このため、米マスメディアは「FRB幹部が議会に準備預金への付利を認めるように交渉を始めた」とたびたび報じている。
議会は2006年10月に5年後(11年)から準備預金への付利を認める法案を可決している。その前倒し導入をFRBは要望している模様だ。それが可能となれば、無理に資金吸収を行なわなくとも、フェデラルファンド金利の低下は準備預金への付利金利水準で止まる。それをより大胆に行なうなら、ゼロ金利を伴わない量的緩和策を可能にもする。
もっとも、金融不安の際に中央銀行への預金に利息が付くと、安全なうえに利回りも確保されることから、金融機関の余裕資金は市場で運用されずにFRBに集まってしまう恐れがある。このため、付利の水準をどうするのか、どの程度の範囲まで超過準備に付利するのか、といった議論が重要になってくると思われる。
(東短リサーチ取締役 加藤 出)