<意思決定の原則4>相手の「視点」にスイッチする癖をつける

 視点取得は、私たちが5歳になったとたんに自動的にスイッチが入ってその後ずっと稼働しつづける技能ではない。むしろ、自動車のエンジンのようなもので、必要になったときに毎回始動させてやらなければならない。注意や時間、あるいは動機の不足から、必要に応じた視点取得能力を始動させそこなってしまえば、私たちの論理的思考は簡単に失速しかねない。他者の視点をもっとうまく理解できるようになるためには、自分の視点取得技能を積極的に始動させる必要がある。

 ここから脱線を防ぐ第4の原則が導かれる。

〈原則4〉ビューポイント――相手の「視点」にスイッチする癖をつける

 他者がかかわる意思決定をする場面では、他者の視点でその決定を念入りに分析してみよう。人間は社会的な生き物だから、私たちの計画には何らかのかたちで他者がかかわっている可能性が高い。だから、自分の計画をやり通すにあたって下す決定は、他者の視点を取得しそこねることで、簡単に脱線しうる。売り上げを生み出すという共通の計画を実行するには、企業は広告キャンペーンや販売促進活動や製品発売に対して顧客が見せそうな反応を理解する必要がある。

 もちろん、カギを握る疑問は、どうやって、だ。

 マサチューセッツ州ケンブリッジに本拠を置くヴァイタリティという新規企業から、効果的な視点取得の例が得られる。2009年、同社は「グロウ(輝く)キャップ」という薬容器システムを開発し、医療の分野の大問題、すなわち私たちが処方された薬をきちんと服用しないという問題を解決した。この問題のせいで、アメリカでは毎年およそ2900億ドルも余計に医療費がかかっており、死者も出ている。糖尿病や心臓病の人は、薬を正しく服用しないと、死亡率が倍になる。

 ヴァイタリティ社のグロウキャップは、こういう仕組みになっている。薬の容器のキャップが開けられると、近距離用の無線信号がその情報を家庭内の送受信機に伝え、その送受信機が電話回線を通してメッセージを送る(携帯電話と似たような仕組みだ)。このグロウキャップは、患者に服用を催促するメッセージを発するのに使われる。具体的に言うと、指定された時間に容器が開けられないと、キャップが明滅を始めて患者に薬の服用を促す。患者が気づかないと、警告音が続き、もっと強く催促する。それでもキャップが開けられないと、グロウキャップはメッセージを発し、それによって自動的に電話がかかったり携帯電話にメールが届いたりして、患者に催促する。

 この革新的な製品に関して私がとくに気に入っているのは、それが効果的な視点取得のあり方を示している点だ。ヴァイタリティ社は、患者がしばしば薬を服用し忘れることに気づき、彼らが計画をやり通すのを助けるシステムを開発した。同社の経営陣は、首尾よく顧客の視点を取得したのだ。

(続く)

※本連載は、『失敗は「そこ」からはじまる』の一部を抜粋し、編集して構成しています。