綿密に計画を練り上げてゴーサインを出したはずのマーケティングプランが、まったく逆効果に終わったこと、ありませんか?
「顧客のためにやったはずなのに、なぜ炎上してしまったんだ……」
「丁寧にニーズをすくい上げたのに、まさか裏目に出てしまうとは……」
そう、「顧客のため」「相手のため」を思ってやったことが、相手にとっては「余計なお世話」となって「失敗」してしまうことは案外多いものです。
『失敗は「そこ」からはじまる』でこの疑問に答えた、研究者にしてコンサルタントが、「顧客のため」を思ってやったことが、大ブーイングを浴びてしまったコカ・コーラ社の事例から、どうすれば顧客の本当のニーズを拾い上げて意思決定できるのか、解き明かします。

コカ・コーラが理解しそこなった「強烈な愛着」

 ビジネスでは、顧客の視点を取得したり、彼らのニーズを理解したりしそこなうのは珍しくないし、そのために失敗した製品やプロジェクトには有名なものもある。

 1例を挙げよう。1985年、コカ・コーラ社は自社の主要製品であるコカ・コーラがペプシとのコーラ戦争に敗れるのを防ぐために、思いきった手を打った。15年にわたって、コークの売り上げが横ばいだったのに対して、ペプシは順調に売り上げを伸ばしていたからだ。

この負の流れを逆転させようと、コカ・コーラ社は危険な賭けに出て、コークの味を変えた。「ニューコーク」として知られるようになるこの新製品の味には、発売前のフォーカスグループの調査では、ほとんどの人が好意的な反応を見せたが、一部の人が声高に異議を唱え、フォーカスグループのほかのメンバーに影響を与えて、反対陣営に鞍替えさせた。

 同様に、ニューコークが発売されると、アメリカの北東部では消費者はおおむね良好な反応を示したが、コカ・コーラの本社がある南部の愛飲者の一部が、味の変更にやかましく抗議し、なかには、これは南北戦争の古傷に触れ、北部に対する新たな降伏を表明するものだとさえ言う人もいた。

 やがて批判の波が国じゅうに広がり、コークの愛飲者の多くが、味の変更を、彼ら消費者のロイヤルティ(忠誠心)に対する裏切りと見なすようになった。ボイコットや抗議運動が起こり、コカ・コーラ社には40万を超える苦情の電話や手紙が寄せられた。コークの売り上げが頭打ちになると、コカ・コーラ社は唐突に方向転換し、ニューコーク発売から3ヵ月にもならない7月10日に、もとの味に戻すことを発表した。

「従来のコカ・コーラへの強烈な愛着――そう、強烈な愛着というのがぴったりです――には驚かされました」

 同社のロベルト・ゴイズエタ会長は、方針の180度転換を発表する記者会見でそう述べた。「コーク・クラシック」の売り上げが急増し、ニューコーク(この時点では、正式にこの名称で売買されていた)の売り上げはがた落ちになった。明らかに同社は、お気に入りの清涼飲料と「コカ・コーラ」ブランドへの消費者の愛着を理解しそこなったのだ