イスラム国(IS)をはじめとする武装組織の脅威が増すなか、そうした組織が武力だけでなくサイバー攻撃との連携を仕掛けてきたり、兵士の勧誘や資金調達、情報拡散のためにネットを巧みに操ることにも警戒が高まっている。オラクルでは従来より、法執行機関や公安部門に向けたITを数多く手がけているが、今回この部門のグローバルでの責任者であるホン・エン・コー氏が来日し、新たな国際犯罪防止におけるITの役割と、サイバーセキュリティの最新動向を語った。
なお、本レポートは前編と後編に分けてお届けする。前編では国際犯罪組織の最新のネット上の動向を、後編では日本が来年導入を控えるマイナンバー制度、そして2020年東京五輪の安全対策についての見解を聞く。(取材・文/ダイヤモンド・オンライン IT&ビジネス 指田昌夫)

ネット上で勧誘され
洗脳されて兵士に

ホン・エン・コー(Hong-Eng Koh)
オラクル・コーポレーション 法執行機関、公安担当グローバル・リード シニアディレクター シンガポール警察で上級捜査官、警察報道官、運用・訓練本部長CIOなどを歴任。警察のコンピュータシステム、インターネットプロジェクトを立ち上げ、情報システムの強化を主導、数々の賞を受賞した。退職して数年後、サン・マイクロシステムズに入社、司法・公安(JPS)市場担当のグローバル・リードに就任。住民登録ID、パスポート、国境管理システム、交通、旅客管理、事故災害管理や、捜査・事件管理、訴訟、刑務所など数々のシステム構築に関わる。オラクルがサンを買収後、現職。 Photo:DIAMOND IT&Business

 コー氏は「我々の活動は、各国の政府の対テロ活動をITの側面から支援することで、それぞれの国を安全にしていくことが目的だ。犯罪者、テロ、国境を乱すものに対抗する複数のテクノロジーを用意している」と語る。

 とくに国際的なテロ組織の活動について、コー氏が懸念を抱いているのが、ネットを使った兵士や犯罪者のリクルート活動だ。Webサイトはもちろん、ソーシャルネットワークを縦横に使い、組織拡大に余念がない。

 たとえば、フェイスブックやリンクトインのニセのIDを使ってまず「友達」を集め、そのフォロワーに対してソーシャルエンジニアリング(心理操作)を仕掛けて個人情報をさらに収集し、ターゲットを絞って犯罪者候補に育てていくという。

「いま、世界の国々が最も問題視しているものの1つがISのテロリズムだと思うが、ISに参加している兵士たちは、ヨーロッパやアジアの国籍の人が多く存在する。アジアからはインドネシア、マレーシア、シンガポールなどの若者が、ネットでリクルートされ、さらに深く関わると“洗脳”されてからシリアに向かうことになる」(コー氏)

 また、ISの新しい活動として、幼い子供がいる家庭の母親に向けて小冊子を発行して、子供のISへの参加を啓蒙する動きがあることも報告されているという。

 一方で、組織に属さず“一匹狼”のテロリストとして、自分の行為をネットで発信している単独犯も多くみられるという。彼らは自国内でテロ活動することが多い。「政府がどんなに警戒し、取り締まってもゲリラ行為を防ぐことができない」というのが、その主張だ。動画などを用いて、ソーシャルメディアでこうしたメッセージを世界に発信しやすくなった時代を反映している。