構造改革を経て多くの日本企業が過去最高益を記録している。とはいえ、未来に目を向ければ「持続的成長の実現」は依然として大きな課題だ。そして、持続的成長を可能にする鍵は、時代を先取りして自らが変革し続けることができるかどうか、すなわち組織の「自己変革力」である。経営の最前線で果敢に挑み続ける経営トップとの対談を通じ、持続的成長に向けて日本企業に求められる経営アジェンダと変革の秘訣を解き明かす。
連載第8回は、前回に引き続き、三菱ケミカルホールディングスの常務執行役員である田中良治氏に「KAITEKI」というコンセプトをいかに組織に浸透させているか、その取り組みについて聞く。
国や地域によって異なる「KAITEKI」の浸透度
松江 経営トップの発想をいかに現場に、特に、歴史が違う多様な事業子会社にどう浸透させていくかが、大きな課題ではないかと思いますが、そのあたりの浸透度はどうご覧になっていますか。
三菱ケミカルホールディングス常務執行役員。2013年4月より、経営戦略室長兼グループ基盤強化室(エリア戦略、マーケティング、自動車関連事業推進)担当。
田中 実際、課題は多いです。浸透させるための施策をもっともっと行っていかなければならないと思っています。国内ではいろいろな部署の従業員と話をする機会があるので、どこまで浸透しているか実感しやすいのですが、「腹落ち」という意味ではかなり個人差があります。
一方、海外で理解が早いのはヨーロッパですね。ルーサイト・インターナショナル(以下、ルーサイト)の幹部に「KAITEKI」を説明したことがありますが、説明が終わった瞬間に幹部同士で議論を始めていました。ヨーロッパの人にとってはわかりやすいコンセプトなのでしょう。驚くぐらい理解が早かった。むしろ、「日本企業もようやく俺たちと同じレベルにきたか」という感じでした(笑)。
松江 欧州の文化的な素地や、サステナビリティというコンセプトに対する理解の違いもあるのでしょうか。
田中 あると思います。個人差は別にして、ヨーロッパのマネジメント層の人たちのサステナビリティに対する理解は深い。「KAITEKI」は、サステナビリティがベースだから、何をしなければならないか、テーマがすぐ出てくるわけです。
特にルーサイトは、われわれのグループの一員になって、「KAITEKI」を中心に据えて事業をやっていこうとなったとき、サステナビリティの観点でやりたいことがたくさんあるわけです。もちろん、われわれのメッセージは、MOEで成果を出すことを求めますが、それだけではありませんから。50年、100年先も見据えながら事業をやろうというメッセージです。それはすごく前向きです。