営業部との信頼関係
横田 うちは、新しいジャンルや著者を積極的に開拓しようとする文化もありますよね。たとえば女性実用って中野さんが切り開いてきたじゃないですか。そのあたりどう感じてますか?
中野 やりづらさは本当にないですね。うちの会社にはないジャンルで不安だったんですけど、すごくのびのびできています。でも、ジャンルもそうだけど、初めて本を書く著者の企画も通りやすい。著者名よりもコンテンツ重視の企画会議だな、と感じています。他の会社から見ると、これは珍しいことなんじゃないでしょうか?
三浦 たしかに初めての著者だと、既刊の数字がなくて判断しにくいですからね。
中野 初めて本を書く人の企画がすごく喜ばれるのは、とてもいいことだと思います。私は2015年4月に『いつもの服をそのまま着ているだけなのに、なぜだかおしゃれに見える』という本を出したんですが、著者の山本あきこさんにとって処女作だったんです。すると営業部の方が山本さんに「うちから初めての本を出してくれて本当にありがとうございます。スゴく光栄です」って言ってくださって。
市川 うちは営業部のトップがそういう旗振りをしてくれていますよね。会議でも「まだ世に出てない新人著者を売り出そう」って明言してくれています。あれは大きいですよね。
横田 営業については、僕は他社さんについても研究しているんですが、現時点だとダイヤモンド社の営業は間違いなく最強クラスだと思います。なので、自分のつくった本を売りたい、世の中に本でインパクトを与えたいという編集者は絶対に来たほうがいいと思う。
市川 うちの営業は「この本を売るんだ」「5万部行かせるんだ」というように、意志をもって目標を決め、それに到達するためにどう戦略を練るかという発想でやりますよね。営業の強い意志を感じられると編集としては心強いです。もちろん対象になる本はしっかり選ぶわけですが。
横田 でも、その選定も不公平な感じはないですよね。マーケットの状況をしっかり見て選び、売り伸ばしていこうとするから。
三浦 データを細かく見てくれているという安心感はあります。たとえば、うちは毎週水曜日に新刊が出るんですが、配本直後の土日の動きを見て月曜日には重版をかけるというのを、かなり確信を持ってやってくれます。その目に漏れたらまぁ仕方ないなと思えます(笑)。
横田 そういう信頼関係もあるので、うちの会社にいると編集と営業が仲が悪いといった話が全然イメージできないんです。そういうのって本当にあるんですかね?
市川 仲が悪いというか、たぶんコミュニケーションがうちほどは密じゃないということなのかな。ダイヤモンド社の場合、ゲラや装丁ラフなどを営業に見せて「どう思いますか?」と日常的にやっています。でも、そもそも編集者って先ほどの三浦さんの話じゃないけど、あんまり言われたくない意識があるでしょ。自分で一生懸命こだわってつくってきたわけだから、的確なコメントがもらえるとか、見せたほうがその後売っていく上で効果的だと編集者が確信できないとコミュニケーションが取りにくい。その点、うちの場合は信頼関係ができていますね。
横田 しかも、聞いた上で意見を採用しなくても雰囲気が悪くなることはありません。営業も大人なんですよ(笑)。
三浦 最終的には編集担当者が決められるという安心感があるので、人の意見にも積極的に耳を傾けられますね。
市川 そうですね、中身やタイトルや装丁について最後の決定権は編集にあると営業もはっきり言ってくれていますから。
横田 編集部のほうでも、最終的には担当編集者に決定が委ねられます。だから納得感がありますね。たとえ売れなくても自分の責任だと。
市川 委ねられるがゆえに誰の責任にもできないから、逆によく考えることにつながっていると思います。