デニーズ創業者・伊藤雅俊さんの
「現場力」

 経営コンサルタントの大先輩の一倉定先生は「穴熊社長は会社をつぶす」とおっしゃっていますが、経営者が社内に穴熊のようにこもっていては、お客さまのことや現場は分からないということを戒められたものです。

 環境変化やお客さまの動向、現場での状況を経営者が見極めることは、企業の「方向づけ」をする上でとても大切なことです。また、現状が上手くいっているかどうか、あるいは逆に現場での問題点を見極めるためにも、お客さまの意見や現場がとても重要です。

 それは、社長室にでんと座っているだけでは分かりません。社長室の外へ出て、現場を見る、お客さまを訪問するといったことを行わないと分からないことです。

小宮一慶
小宮コンサルタンツ代表

 私の会社は東京の麹町というところにあります。すぐ近くにセブン&アイホールディングスの大きな本社ビルがあり、それに併設して傘下のファミレスのデニーズがあります。

 私の会社から近いので、私はお客さまやスタッフとときどきそのデニーズで食事をとりますが、そこで何度か創業者の伊藤雅俊さんをお見かけしたことがあります。もう90歳を過ぎておられますが、ご自身で階段を上り2階の店にやってこられます。

 売上高6兆円もの会社の創業経営者ですから、デニーズで提供しているものを食べたいのなら、秘書に言えば名誉会長室まで持ってきてくれると思いますが、ご自身でお店に出かけて食べられるのです。味だけなら、名誉会長室で食べても分かりますが、店の雰囲気や、サービスの状況、そしてお客さまが何を食べ、満足されているかどうかは店に出ないかぎりわかりません。

 やはり、一代で会社を大きく伸ばす経営者は、お客さまを直接見ることや現場を大切にされるのです。名誉会長であり、高齢であればそこまでしなくてもと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、その「一歩の踏み込み」を自然にできるところが、一般の人と違うところなのでしょう。