「おれをからかった子どもを出せ!」
塾に怒鳴り込んだ暴力団員

 暴力団員は、塾と自分をからかった子どもの親に謝罪を求めた。室長(男性・30代半ば)は、塾の本部に電話を入れ、判断を仰いだ。本部からは「上手く対処して、早く帰ってもらえ」という指示しか得られなかったという。

 すごまれた室長は、暴力団員の意のままに動かざるを得なくなった。暴力団員は、「子どもがいる教室に入らせろ」と脅した。「はげ」とののしった子どもを見つけ出すためだ。室長は教室の中が見える場所に案内し、暴力団員に見せた。

 暴力団員は、自分をからかった3人の子どもを見つけた。室長に「あの3人の子の親を呼べ」と命じた。室長は親たちに電話を入れた。3人のうち、2人の親は翌日に謝罪をするため塾に来ることになった。残る1人の親は、「警察に相談をする」と答えたという。その後、この親からは何の連絡もなかった。

 翌日、暴力団員は再び現れた。室長と2人の親は会議室で深々と頭を下げ、お詫びをした。暴力団員は、それで納得したようだったという。その後は、音沙汰がない。

 室長は頻繁に通う喫茶店の店主に、「自分の判断がよかったのかどうかはわからない」と話していたようだ。数ヵ月後の人事異動で、他の教室に移った。本人ももともと異動を希望していたという。その塾を離れる間際まで、「本部はいざとなると裏切る。社長や役員たちは信用ができない」と漏らしていた。

 学習塾はここ25年ほどの間、驚異的な成長を遂げた。経営者はカリスマであり、有名な講師もいる。

 この「事件」は、付近の喫茶店やとんかつ店、スナック店、そば店の店主が時折、客である筆者に話題として話すことだ。塾に怒鳴り込んだ暴力団員は、商店街の店主たちからは評判がいい。

「客として頻繁に来ては、お金を落としてくれる」

「時々、子分5人ほどを連れて現れる。マナーはものすごくいい」

「他の客が数人いるときは、店には入らない。気をつかっているみたい」

「会社員や学生よりも、常識をわきまえている」