老夫婦が営んでいた商店と、活気を失った商店街

 64歳という年齢のせいもあるのか、かなり疲れ切っているように見えた。ひざを痛め、ひきずって歩く。2階建ての家だったが、階段を降りるとき、特に痛みが激しいようだった。夫婦には子どもはいない。ヘルパーが週に2~3日、介護をするために訪れていた。

 当時、大店法(大規模小売店舗法)の緩和が話題となっていた。この法律のもとでは、大型店がその地域に出店する際には、地元業者と事前に調整することが求められていた。その意味では、自由に店を構えることができない「規制」と言える。国内の経済界を始め、アメリカなど海外の政府・経済界からも批判を受け、2000年に大店法は廃止された。

 1998年当時、最寄り駅付近には、いくつもの大型スーパーなどが進出していた。この地域には、十数回取材で足を運んだが、連日多くの人が買い物で押し寄せる。主婦たちは、安くて、品ぞろえが行き届く大きなスーパーに向かう。

 これでは、商店街の店主たちは収入がなくなり、生きていけない。日本の商いの文化とも言える商店街が消えていく――。

 こんな報道が、新聞やテレビなどで大量に流された。特に「リベラル」「進歩的」と言われるメディアを中心に、当時の与党や政府、経済界に厳しい批判が浴びせられた。

 経済界寄りと言われる雑誌なども、そのトーンに近いものだった。メディアに登場する識者の発言を見聞きすると、現場のことをさほど知らないのではないか、と筆者には思えた。それでも、盛んに政府・与党、経済界などを批判していた。その理由の1つが、冒頭で紹介した老夫婦などが生活苦で生きていけなくなる、というものだった。

大店法緩和の影響で息も絶え絶え?
「弱者救済」というヒューマニズムの裏側

 実は64歳の女性は、そのような報道を行う新聞社の記事に登場した人だった。記事では、「市場原理が浸透し、大店法が緩和されたことで、店に客が来なくなり、息も絶え絶えの老夫婦」という扱いで紹介された。

 筆者は放送局に勤めていた98年に、その記事を読んだ。規制が緩和されつつあるからと言って、そこまで急激に商店街が変わることはあり得ないと感じた。当時の上司もまた、「記事のつくり込み過ぎの疑いがある」として、筆者が取材することを認めてくれた。もともとこの記事を載せた新聞の経済面は、弱者救済のヒューマンな視点の記事が多い。