人事部内にも蔓延する
「システムの代弁者」

 実は、同様の事象は、企業の人事部門内でも頻発するようになっている。多くの企業が、人事管理システムを導入するようになった。社員が人事担当者へ、「住所が変更になったので手続きをしたいのですが」と問い合わせると、「システムで変更の入力をしてください」と回答されたり、驚くべきことに「氏名の漢字表記が違っているのですが」との修正依頼に対して、「システムがそうなっています」と返答が返ってきたケースすらある。

 この例以外でも、能力開発プログラムを実施する際、「参加者の能力を開発する」という本来の目的を忘れ、研修を実施して出欠をとることが目的になりかわっていたり、人材を採用する際、「有能な人材を採用する」という目的を忘れて、代わりに人数を揃えることが目的になってしまったりする例が絶えない。これは「目的喪失症候群」とでも呼ぶべき病理だ。

 前述の運転手が教えてくれたように、着任当初に、あるべき言動を徹底して習い、さらに一定期間後に、フォローアップの機会があるということは、定着度合いを確認するために有用だ。しかし、トレーニングの機会があったとしても、目的をはき違えていては、目的に適った言動ができない状況に陥ってしまうことに変わりないだろう。

 では、自身の行動が目的に適った行動になっているかどうかを、定期的に確認するためには、どのようにすればよいだろうか。毎日、標語を唱えればよいだろうか。ビジョンを検討し、再確認し合うセッションを、定期的に実施すればよいだろうか。いずれも、よく行われているセッションであるが、少なからず抵抗感を持たれるのではないだろうか。

 私は企業で研修を行うなかで、目的をしっかりと再確認し続けていくために、さまざまな方法を試みてきた。その結果、最も効果的で長続きのする、取り組みやすい方法は、事例研究だと思うに至った。

 目的を持ち続けろ、目的を達成したあかつきのビジョンを思い浮かべろという演習は、聞きようによっては、上から目線ではないだろうか。逆に、「一人ひとりのすばらしい取り組み事例を共有しましょう」という投げかけは、メンバーの一人ひとりをリスペクトしているというメッセージを、「リスペクトしています」という言葉を使わずに、伝えることができる。