批判や反対運動が「絶歌」の炎上を
ビジネスとして成立させた

 だが、この批判や反対運動が出版ビジネスに大きな打撃を与えず、むしろ逆の効果をもたらした。新聞、テレビ、ネットで連日のように「絶歌」という書名が露出するなど、凄まじい大金をつぎ込んだ一大プロモーションを展開したのと同じ広告宣伝効果を得たのである。事実、「絶歌」は初版10万部、6月末には5万部が増刷された。

 長い目で見たら出版社の信用を毀損したと評する人もいるが、版元である太田出版は、過去にも「完全自殺マニュアル」のような批判の多い本を出しても今日まで普通に商いを続けている。つまり、「信用の毀損」による出版社へのダメージは、たかが知れているのだ。

 個人的には、幻冬舎社長の見城徹氏がサジを投げたほどのお粗末な中身だったがゆえ、社会と遺族へ喧嘩をふっかけて話題先行型で「売り逃げ」をしたのが本当のところだと見ているが、結果として、批判批評・悪口が絶大な広告宣伝効果を生んだのは、紛れもない事実だ。そんな狙いはなくとも、この現象だけを見れば「炎上商法」と受け取られても仕方がない。

 今年2月に公表された独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査によれば、携帯端末の利用者3500人のうち、ネットへの投稿経験がある1850人のなかで「他人や企業の悪口」や「さげすんだり、けなしたり」という悪意のある投稿をしたことがある人は26.9%に上り、前年から3.4ポイント増えた。また、このような投稿をした理由は、「反論したかった」「投稿やコメントを見て不快になった」「非難・批評するため」が20~30%台となっており、投稿をすると「気が済んだ、すっとした」(31.9%)と感じた人が多かったという。

 つまり、「炎上商法」は、いかに人々の「怒り」「批判」というネガティブな感情を引き出すかがポイントになるのだ。だから、火のないところに大火事を起こすさまざまな施策が編み出された。ネット業界でいうところの「燃料投下」のようなものも、欧米の広告業界では古くからおこなわれている。

 わかりやすいのは1999年の「センセーション展」だろう。

 ニューヨークのブルックリン美術館で、「センセーション」という展覧会が開かれることになった。牛の生首のまわりをハエが飛び交う作品や、猟奇的殺人犯のポートレートなどがあるエグい現代美術を集めたものだ。その展覧会オープン直前、いきなり当時のNY市長だったジュリアーニ氏が、「吐き気を催す」として展覧会の中止を要請し、市からの補助を打ち切るなどと言いだした。ある黒人作家が描いた黒人の聖母マリア像の描写が、カトリックを冒涜しているというのである。