エゴイストばかりが集まる集団――。それがやくざの世界であり、同時に国際政治の世界である。この中で平和を実現するには、一筋縄ではいかない戦略を考える必要がある。
国際政治とやくざの世界に共通する
「エゴイストの集団」の特徴
筆者の住んでいるマレーシアでは、首相の汚職問題やイスラム過激派の問題が大きな話題だが、日本のニュースはたまにしか取り上げられることはない。したがって、海外に住んでいると、日本の出来事のニュースソースはネットがほとんどになる。
この1ヵ月ほど、自然災害を除けば、安保法制案についてと山口組分裂についてのニュースばかりである。安保法制案は、その是非や国会内での動きを報じていたものが、このところSEALDsを中心とする「反対デモ」の動きが多くなっている。
山口組分裂については、そろそろニュース頻度も少なくなってきているが、表立った抗争が起きていない理由や、水面下での動きの予測などが主だった。
この2つのニュースは、国際関係論や組織論を考える上でもかなり重要で(学問的に)面白いトピックである。学問的な成果から考えると、安保法制は必要であり、山口組の抗争は少なくとも派手には起きない。
その理由を説明したい。
アメリカ・ミシガン大学の国際政治学者であるロバート・アクセルロッドが1981年に発表した著書『Evolution of Cooperation』(邦題/つきあい方の科学)では、エゴイストが集まった集団、しかしお互いに協力して生き残りをかけなくてはならない状況にある集団において、いかなる行動規範が最も生き延びるのに「合理的」かを調べたコンピュータシミュレーション研究を紹介している。
集団の中で協力しなくてはならないが、そのメンバーは基本的にエゴイスト、という状況は、ほぼ全て組織に当てはまるが、国際政治の世界や、やくざ組織の世界ではそれが顕著だ。それらの組織や国際社会では、基本的に「自国または自分への利益」を最大化しようと皆が考えている。この最大化は利益を得ることだけが目的ではない。一番重要な目的は「生き残ること」である。
そしてその状況は、集団の中の成員同士の関係が「囚人のジレンマ」に相当することを意味している。