写真(上)気になる「花の郷発電所」の中はこうなっている。スペースは1LDKのマンション程度と非常にコンパクト。(中)横軸三相誘導発電機、横軸フランシス水車を使用。(下)丸紅の小水力発電を育てた大西英一・国内電力プロジェクト部部長代理と、発電機横の制御盤の様子

 発電所の誘致決定を見届けた前町長は、任期満了で役所を引退。その後、ほどなくして倒れ、この世を去ってしまった。「それからは、真冬の大雪の中での工事も、めげずに頑張りました。我々に地元の未来を託してくれた前町長の遺志に報いるためにも。その思いを実現させることができました」と、大西氏は感慨深げに振り返る。

 部材の調達から発電所の建設まで、節約に節約を重ねた総工費は約3~4億円。これが採算ラインを維持できるコストだった。利益はもちろん大事だが、民間企業と地方自治体が一緒に再生可能エネルギーのモデル地域をつくれることに、同社は将来性を感じているという。足もとでは下郷町でもう1ヵ所、近隣の猪苗代町で1ヵ所の小水力発電所を計画中だ。

電力小売り事業にも参入
再エネに賭ける勝算

 商社が再エネビジネスをやっていると聞いて、読者諸氏の中には意外に思う向きもあるかもしれない。だが、もともと総合商社は、海外で長く火力・水力発電などの大規模公益事業を手がけてきた実績を持ち、発電事業は得意分野。丸紅をはじめ、三井物産、三菱商事、伊藤忠商事といった商社も、海外の再エネ関連企業との出資・提携関係などを通じて、グローバルに事業を拡大している。

「花の郷発電所」の近隣にある道の駅「三彩館」には、水力発電の仕組みがわかる学習施設が常設されている

 ここに来て元気があるのが、国内の再エネビジネスだ。背景には電力自由化の波がある。2000年3月の電気事業法改正により、それまで電力会社(旧電力)が独占していた電力小売りの一部自由化が始まり、2004年以降、順次自由化範囲が拡大されている。2016年には全面自由化が始まる予定だ。こうした潮流を睨み、丸紅は2000年7月、経済産業省に「特定規模電気事業者」の届け出を行い、電力小売り事業に参入した。

 現在は新電力(PPS)事業者として、新規電源の建設・余剰電力の確保と共に、北海道、東京、中部、関西、中国、九州電力管内にて、電力の小売りを展開中だ。その量は、2015年4月1日時点で、スーパー、オフィスビル、官公庁施設などとの全国2800以上の契約地点を通じ、約120万kW規模に上る。すでに「新電力」として国内3位の規模に達している。

 目下、国内の電源開発は17件。火力発電のほか、水力発電、風力発電、太陽光発電(メガソーラー)、バイオマスといった再生可能エネルギーにも注力しており、再エネ電源は全体の約7割(2015年7月現在)、電気小売事業向けの再エネ電源取扱い比率は全体の約25%(2013年度実績)と高い。なかでも同社国内電力プロジェクト部が注力している事業の1つが、小水力発電なのだ。そもそも水力発電は同社が電力小売りに参入したきっかけでもあり、水力電源を自社で保有しているのは、新電力事業者の中で同社だけである。

「花の郷発電所」の発電の流れや仕組みがよくわかるパネル。拡大画像を参照してほしい
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 現在、稼働している小水力発電所は国内8ヵ所。長野県伊那市の三峰川(みぶがわ)第三・第四発電所、同県茅野市の蓼科第一・第二発電所、山梨県北杜市の北杜川子石発電所、北杜西沢発電所、北杜蔵原発電所、そして冒頭で紹介した福島県下郷町の花の郷発電所だ。小水力発電所の出力はこれらを合わせて約2000kW程度であり、同社の国内電力事業における水力のシェアも8%と、規模はまだ小さい。「大きなビジネスに育てるのはこれから」(大西氏)という状況だ。

 こうして見ると、丸紅が手がける小水力発電は、総合商社の再エネビジネスの中では意外なほど地味な印象だ。なぜ同社は小水力発電に目を付けたのか。その理由は、他の再生可能エネルギーにはないメリットがあるからだ。