たとえば水利権だが、河川は河川法によって、一級河川(国の管轄)、二級河川(都道府県の管轄)、準用河川(市町村の管轄)、普通河川(河川法の適用外だが状況に応じて市町村が管理)などに等級が分かれており、水の利用にはそれぞれの許可権者に許可をとる必要がある。一般的に一級河川の水利権をとるには、利用する流域の水量を何年分も測定してデータを国交省に提出したり、役所が申請内容を審査したりする事前準備・手続きによって、以前は長期間を要した。丸紅は多くの発電所で普通河川を利用してきたが、三峰川第四発電所の建設時には一級河川の水利権を取るため、2年程度の時間をかけた。

 これだけでも大変だが、農業用水路などを使う際には、河川法ができる以前から水を使ってきた地元農家などに慣行水利権が生じるため、彼らの理解も得なくてはいけない。「発電に使った水を水路に戻す」「使用料を支払う」など、地元のメリットを考慮する必要がある。また発電所を建設する土地も、個人の所有者や権利者から購入する場合が多いが、地元に害を与えるものではないことを根気よく説明し、自分たちを信頼してもらわなくてはいけない。

 かような交渉事の多さもあり、事業をスムーズに進められるかどうかは、地元との信頼関係を築けるかどうかに大きく左右されるわけだ。その意味では、北杜市とのコラボのように、始めに地域全体での協力体制を取り付けられる案件を模索していくことも必要となる。

地域との共存共栄がキーワード
「僕らが業界の起爆剤になりたい」

 業種によっても事情ややり方は異なるだろうが、今後民間企業が再生可能エネルギーをビジネスとして成功させるためには、こうした地域との「共存共栄」が1つのヒントになると言えそうだ。水力発電について考えてみよう。そもそも近代日本の電力を担っていたのは水力発電であり、戦前から戦後の高度成長期までの日本には、地域密着型の小水力発電所が国内にたくさんあった。その後、石炭から石油、さらには原子力へとエネルギーシフトが進むなか、電力会社の電力網が全国に普及し、小水力発電は廃れて行った。

 しかし、再生可能エネルギーの必要性が改めて問われている今、古くから住民が慣れ親しんだ小水力発電のようなノウハウに再び注目することは、地域へのエネルギー供給の仕組みを考え直す上で、最も効果的な方法の1つではないかということに、改めて気づかされる。丸紅の小水力発電も、言い換えれば、古き良きインフラの再発見・再利用活動だ。さらなる制度整備の必要性も指摘されてはいるが、足もとではFIT(固定価格買い取り制度)の追い風があり、小水力発電への参入・活性化を模索する地域住民や団体は増えているという。ただ、業界はまだ成熟していない。海外資本と連携した洋上風力発電が話題になるなど、商社の再エネビジネスには目立つ案件が多いが、「究極のエコ」を目指す国内の地道な取り組みも、興味深く見守りたい。

「小水力は金儲けのイメージが強い商社には、似つかわしくないビジネスかもしれませんね。正直、周囲に『お前、儲かるんか?』と聞かれることもよくありますよ。でも、意義のある仕事だと思っている。まずは僕らが起爆剤になって、業界を活性化させることが大事だと思っています」

 大西氏は笑う。当面の目標は、東京五輪が開催される2020年までに、小水力発電所を全国30ヵ所まで増やすこと。小さな発電所が大きなビジネスの夢を紡ぐ。雨の日も風の日も、東京本社と日本各地を往復する関係者の忙しい日々は、終わりそうにない。

(取材・文・撮影/ダイヤモンド・オンライン副編集長 小尾拓也)