光触媒を外壁に塗布しておくだけで、雨と一緒に汚れを落としてくれる。光化学スモッグや酸性雨の原因になるといわれる窒素酸化物(NOx)も浄化する──これが、TOTOが2007年から発売している「ハイドロテクトカラーコートECO-EX」だ。
光触媒そのものは、化粧品や食品添加物に使われる酸化チタンを原料としており、珍しいものではない。ところが、塗料として使うには、光触媒が塗料の成分である有機化合物を分解してしまう。TOTOはここに目をつけ、1990年代から開発。世界で初めて実用化にこぎ着けた。
だが、事業化は思うように進まなかった。潜在市場の大きさに目をつけ、98年から自動車向けに参入したが、昨年、撤退を余儀なくされた。「コストが高過ぎて市場が広がらなかった。自分たちのコアでない領域に手を広げ過ぎたのが失敗」と張本邦雄社長は分析する。
そのTOTOが光触媒を再び新規事業の柱に据えた。17年度に向けた中期経営計画では、光触媒事業の売上高を現在の120億円から350億円に、営業利益は45億円(現在は非公表)を目指すという。
TOTOは自動車での苦い経験を生かし、今回はタイルや外壁など住設メーカーとして土地勘のある分野に絞る。さらには、自前主義もやめ、タイルメーカーや外壁メーカーへのライセンス供与や塗料の供給に軸足を移す。ライセンス契約数はすでに94社に上る。
TOTOはマーケティングも変えた。汚れがつきにくいという機能にとどまらず、環境に絞った。1軒の家の外壁にハイドロテクトが使われると、自動車12台分のNOxを浄化できるのだという。
「高速道路の遮音壁や中国にある日系企業の工場の外壁でも採用が決まった。これまで取引のなかった海外メーカーからも問い合わせがきている」(張本社長)
失敗の経験が今、生かされようとしている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)