ドル円相場を取り巻く情勢に微妙な、しかし無視し得ない変化が生じつつある。上昇トレンド観に変わりはない。ただし、上方志向はあっても、山の尾根を挟んで日なた側と日陰側を行くほどの違いが、2016年にかけての登頂のありさまを変えてしまう可能性がある。端を発したのは中国ショックだ。同国では株価が急落し、通貨が切り下げられ、景気が減速しつつある。中国当局の政策発動能力から判断して、同国の経済自体はサポートされ、「新常態」へ向け1、2年かけて経過観察することになろう。

 しかし、新興国・資源国の様相が変わった。中国ショック以前は、世界経済は曇天でも、先進国に薄明かりが広がり、既に降りだしたブラジルなどを除いて、多くの新興国・資源国は雨を免れそうだとみていた。ところが、中国元の切り下げを契機に、アジアの雲行きが怪しくなった。それが資源価格を急落させ、ブラジルに続き、南アフリカ共和国、インドネシア、政治不安のトルコやマレーシアを風雨にさらす事態へとつながった。

 この展開が米経済の成長ペースを若干鈍らせつつある。米国はここまで地道な景気回復でほぼ完全雇用まで失業率が低下し、年内の利上げ開始が期待されていた。ところが、原油の一段安でエネルギー産業の着地が見通しづらくなり、外需減退で米輸出が減って、経済成長の中期予想を下方修正せざるを得なくなった。米GDP成長率の新予想は今年2.4%、来年2.5%。FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げは、年内は見送りで、来年3月と6月に0.25%ずつ、様子見期間を経て17年に5、6回追加実施というのが新たな想定である。