バブル経済が終わるまで
入社試験の成績と出世は比例した?

「入社時の“学力”と昇進は、正の比例関係にある」と言った経営幹部の言葉は、筆者にとって衝撃的だった

 1980年台後半のバブル経済に入る直前、某有名巨大企業の管理部門の経営幹部から、個人的な調査の結果ということで、こんな話を聞いた。

「うちの会社では、入社時の“学力”とどこまで昇進するかは、ほぼ完全に正の比例関係にあるんですよ」

 これは衝撃的だった。要するに、入社試験の成績が良い人は出世する、と言い切っていたからだ。その経営幹部は、“学力”(といっても研究者のレベルのそれではなく、適性検査のレベルの話)の重要性を力説したうえで、さらにこう言った。

「これは成績の良い人を出世させた戦前の陸軍や海軍と違って、純粋に“結果”としてこうなっているだけです」

 つまり、仕事のできる人を出世させたところ、入社時のテストの成績が優秀な人ばかりだ、とのたまわれたのだ。私は「学校の勉強ができる力とビジネスができる力が比例するなんて、どう考えてもおかしい。ここの会社はまともに“商業”をしていないのではないか」と反論しようと思ったが、まだペーペーの私に発言の機会などとても許される状況には無かった。

 ちなみに、この会社は、技術、ブランド、販売網、などあらゆる面で抜きんでており、研究者を別として、主な業務といえば適切に資源配分を行うことや要員の獲得と管理だった。加えて、官界との関係も重要だったため、旧帝大卒であることも重視されていた。

 しかしながら、その後、この会社は、国内の需要が激減したところに新興国からの追い上げを受け、世界的な競争の中で技術的な優位性も無くなり始めた。そこで、たくさんの経営資源を投入して、一気に多角化をはかり、これまでやったことの無いような色々なビジネスをやり始めたのである。天下国家を語っていた矜持の高いエリートたちが、新規事業に多額の投資とともに殴り込みをかけたのだ。しかし、多角化戦略はことごとく失敗し、ほぼ全滅という結果に終わる。私の違和感は現実のものとなった。彼らが言う“学力”と新規事業をする力は必ずしも比例関係になかったのだ。