なぜ「職人」と「商人」はわかりあえないか
以前この連載で『「理系」と「文系」がいかに解り合えないか』について話をしたことがあるが、同様に「職人」と「商人」にも深い溝がある。私は営利企業の社長なので形式上は商人となるが、そのメンタリティは100%職人だ。つまりは「こだわりの強い、面倒くさい人」なのである。
職人と商人は、どこまでも違う。たとえば、職人は自分の「腕」、つまりは技術(スキル)で勝負するし、技術をアイデンティティの中心におく。技術の進歩には、日々の準備や鍛練が大事であり、依頼に対して真剣に向き合い、結果を残そうと「努力」することから新たな技術が獲得できると考える。ともすれば結果を出すことは目的ではなく、技術進歩のための機会としてとらえる傾向がある。
一方、商人は時流と差分(時間差と空間差)を見る。世に溢れるあまたの情報(インフォメーション)の中から、いかに自分のビジネスに必要な真の情報(インテリジェンス)を抽出するか、時代の流れは今後どうなるかを上手に読むことが商人の腕の見せ所なのだ。「大黒柱に車をつけよ」とはイオングループの社訓だが、これは本来不動のはずの一家の中心をこそ、変化に合わせて適切な場所に移動させる(変化対応)ことが、商業の基本であることを示す。
さらに、商人の本質は「賭け」(リスクテイク)にある。売れるかどうかわからない商品を作らせたり、仕入れるにはお金がいる。店を出すにも広告を出すにもお金がいる。お金を調達し、可能性のあるところに賭ける。ダメなときは損切りして逃げる。そして結果(利益)を残す。結果が出るから次の賭けができる。この賭ける能力において卓越した姿を見せてくれるのがソフトバンクの孫正義氏だろう。